必殺技やコスチュームがカギ? 『ヒロアカ』『スパイダーマン』『るろ剣』などにみるヒーロー論

『ヒロアカ』などにみるヒーロー論

『ザ・ボーイズ』シーズン2

 これは、Amazonオリジナルドラマ『ザ・ボーイズ』にも共通する設定だ。こちらではヒーローが能力を悪用し、性犯罪や殺人が横行していくさまがショッキングに描かれていくが、超人社会では常にその危険が付きまとう。『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』での戦いを受けた『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で、アベンジャーズを国際連合の管理下に置こうとする「ソコヴィア協定」が生まれたのも、同様のテーマといっていい。

 ディズニー/ピクサーの『Mr.インクレディブル』シリーズもまさにそうで、こちらはスーパーヒーローを持て余した政府が、彼らを引退させた世界が舞台だ。主人公は政府の決定により失職し、保険会社に務めるサラリーマンとなる。ヒーロー活動を禁止されてしまうのだ。

『ダークナイト』(c)Warner Bros. Entertainment Inc. BATMAN and all related characters and elements are trademarks of and (c)DC Comics.

 対して、『ダークナイト』をはじめとする『バットマン』シリーズにおいては、法の整備がないことで、バットマンもジョーカーもひっくるめて「犯罪者」として扱われることに。バットマンを「自警団(ヴィジランテ)」とみる向きもあるが、現行の法に照らし合わせれば、行いは英雄的であっても認可できないものとなる(これは法で裁けない悪党を秘密裏に制裁する『デアデビル』も近しい)。

 個性(特殊能力)の使用を法で制限することで、社会の“力の均衡”を保つ。このシビアな設定は、これまでの日本のヒーロー作品ではあまり見られなかったものだ。『ウルトラマン』の科学特捜隊や『科学忍者隊ガッチャマン』のように「平和を守る組織」として社会とコネクトするものはあれど、どこか性善説的というか、「能力を悪用する」という側面は強くは描かれてこなかったように感じる。

 ただ、近年では『文豪ストレイドッグス』の内務省異能特務課、超能力ではないが力の行使という意味での『PSYCHO-PASS サイコパス』のポジションなど、「制限する」という意味合いを強めた作品も多数生まれてきており、『青の祓魔師』や『呪術廻戦』など、強大すぎる力を秘めた主人公を“武器”として育てるというストーリーも存在。「性善説」と「性悪説」が混沌とした時代に突入してきたといえるだろう。

『スパイダーマン』(c) 2002 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved. | MARVEL and all related character names: (c) & TM 2020 MARVEL.

 また、「ヒーローが職業になり、金銭の譲受が発生する」という設定は、サム・ライミ版『スパイダーマン』で描かれた「ヒーローはボランティア行為で、食い扶持は他で稼がなければならない」不遇に対する救済措置ともいえる。そして、この構造が発展していくにしたがって、「密かに悪をくじく」的なヒーローの情緒は薄れていく。トニー・スタークが「私がアイアンマンだ」と公表したように、ヒーローは皆に知られた存在になっていくのだ。

 しかしそれは同時に、ヒエラルキーを生み出す原因にもなってしまい、『ミスター・ガラス』で描かれた「能力者狩り」、『LOGAN/ローガン』での「ミュータント狩り」等々、新たな脅威が台頭していく。「異分子を排除する」という動きは人類史とも密接に結びついたものでもあるが(『ゲゲゲの鬼太郎』でも差別は重要なテーマ)、ヒーロー映画の流れを見てもどんどん複雑化しているのが興味深い。

 このように、『ヒロアカ』に見られる「現代社会をベースにしたうえで、どうヒーロー作品を展開させるか」は、それぞれに独自の“世界”がある『ONE PIECE』『NARUTO ナルト』『BLEACH』といった近年の『ジャンプ』のヒット作と一線を画すものであり、アメコミや洋画からの影響を強く感じさせる。しかし今や、『アベンジャーズ』や『ダークナイト』の存在もあり、日本でもなじみあるものに変わりつつあるのも、確かだ。

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