入江悠監督が語る、総決算となった『ギャングース』 「見過ごしていた“リアル”があった」
2009年、『SR サイタマノラッパー』で日本映画界に衝撃を与えて以来、『太陽』『22年目の告白 -私が殺人犯です-』『ビジランテ』など、多彩な作品を発表し続けている映画監督・入江悠。その最新作『ギャングース』が11月23日より公開された。
肥谷圭介×鈴木大介による同名コミックを実写映画化した本作は、犯罪集団だけを標的とする窃盗“タタキ”稼業で過酷な社会を生き抜く3人の少年たちの姿を描いている。リアルサウンド映画部では入江監督にインタビュー。『SR サイタマノラッパー』より一貫する入江監督作品のテーマとはなにか、本作に込めた思いをじっくりと訊いた。
『ビジランテ』を経て、入江悠作品の総決算
ーー『SR サイタマノラッパー』シリーズから始まる男3人組の関係性、『ジョーカー・ゲーム』などに通じるアクションの見せ方、前作『ビジランテ』で描かれていた裏社会や血縁関係の問題など、本作は入江監督の総決算に近い作品のように感じました。
入江悠(以下、入江):この企画は5年前から始まったのですが、企画当時では絶対に本作のような仕上がりにすることはできなかったと思います。特にスパイアクション映画の『ジョーカー・ゲーム』、盗賊を主役とした時代劇『連続ドラマW ふたがしら』(WOWOW)の経験は非常に大きかったです。作品冒頭からサイケ(高杉真宙)、カズキ(加藤諒)、タケオ(渡辺大知)による“タタキ”シーンを入れたのですが、2作品の経験があったからこそ、彼らの動きを無駄なく見せることができたかなと思います。
ーー5年前の時点で制作したらまったく別の仕上がりになったと。
入江:そうですね。5年前に制作していたら、タタキのシーンも、サイケたちの天敵となる六龍天の描写も、決してうまくいくことはなかったと思います。先程あげた2作品のほか、『ビジランテ』で闇社会を描いたことも、本作を作る上で大きな経験になっていたと感じます。原作漫画を読んだとき、僕の好きな3人組の話であり、かつ社会性と娯楽性をバランスよく兼ね備えた素晴らしい作品だと思いました。取り扱っているテーマも、キャラクターも魅力的。でも、当時はまだ連載が続いてたこともあり、映画としてどういった結末に向かうのか予測がつかなかった。結果として、原作漫画が完結するまでに、さまざまな作品を手がけることができたこと、年齢を重ね当時よりも視野が広がったことが、本作の制作において非常に大きかったです。その意味でも、僕の総決算と言ってもいいかもしれません。
ーーこれまでの入江作品と共通する男3人組が主人公となる本作ですが、キャスティングはどんな経緯で?
入江:まず、最初に決まったのはカズキを演じた加藤諒。モヒカンでぽっちゃりしているという少し非現実的なキャラクターなんですが、実写化したときに嘘っぽくはしたくなかった。その中でカズキをリアルに体現できるのは誰かと探したときに挙がったのが加藤くんでした。高杉くんは、彼が出演している映画を観てサイケでいけるなと。
ーービジュアルを観たときに誰だか分からなかったのが、タケオ役の渡辺さんです。
入江:大知くんはこの役のために金髪にそめて、眉毛も剃ってくれました。普段の彼とは別人のような見た目ながらも、大知くんの持つ周りを包む空気感がすごくハマってくれたと思います。
ーーサイケたちのタタキ作業をアシストする情報屋・高田を演じた林遣都さんも相変わらずの存在感でした。
入江:林遣都くんは本作で初めてご一緒したのですが、本当にうまいなと思いました。リアリティのもたせ方、短い中でハッとさせるようなことを作り出すセンスが抜群にいい。漫画のキャラクターにも近いですし、林遣都でなければ成立しないものになっていたと思います。冷静で客観的な目線がある。主人公の3人とも近づきすぎてしまうと嘘っぽさが出てしまう。情報屋として1人で生きてる存在としてドライさがないといけない。最後に映るシーンも笑ってはいないけど、ホッとさせるものがある。ひとつの芝居で伝える情報量が多いので、出演シーンは短いながらも重要な役柄として存在してくれました。