阿部寛主演『祈りの幕が下りる時』はシリーズの総決算に 『新参者』からの魅力を紐解く
2010年に放送された連続ドラマ『新参者』(TBS系)は警視庁捜査一課の刑事・加賀恭一郎(阿部寛)が日本橋の人形町で起きた殺人事件を捜査する物語である。
原作はミステリー作家・東野圭吾の人気小説。加賀恭一郎は1986年に書かれた『卒業-雪月花殺人ゲーム』(講談社)で初登場している。当時は殺人事件に巻き込まれたことで事件を捜査することになる大学生だった。その後、1989年に書かれた『眠りの森』(講談社)に刑事として登場し、その後も『悪意』(双葉社)等の作品に脇役として登場してきた。加賀恭一郎は東野が小説家としてキャリアを重ねる中でいっしょに育ってきたキャラクターだ。
飄々とふるまいながら、容疑者を問い詰めていき、事件の真相にたどり着く加賀は『刑事コロンボ』の日本版とでもいうようなたたずまいで、剣道の達人でありながら、阿部寛の飄々とした振る舞いもあってかおじさんの余裕を感じさせる。ミステリードラマ『TRICK』(テレビ朝日系)や『結婚できない男』(カンテレ・フジテレビ系)などでコミカルな中年男性を演じてきた阿部寛のユーモラスさが同居したハマり役となった。
阿部寛が加賀を演じるこのシリーズは『新参者』以降、『赤い指』、『眠りの森』というスペシャルドラマ。そして2012年の映画『麒麟の翼~劇場版・新参者~』、そして今年の1月に劇場公開され、今回ソフト化された映画『祈りの幕が下りる時』の5本の作品がある。
加賀は前日譚となる『眠りの森』では警視庁捜査一課の刑事、『赤い指』では練馬署の刑事だった。『新参者』と映画2作では日本橋署勤務となり、物語の舞台も日本橋・人形町近辺となった。この街で起こった殺人事件の背景を捜査していくうちに、小さな家族が抱える複雑な人間模様に直面していくという感じで物語は進んでいく。
毎回印象に残るのは「人は嘘をつく」というナレーション。『新参者』がミステリーとしてユニークだったのは、翻訳家を目指す1人暮らしの40代の女性の絞殺事件を捜査する中で、次々といろんな家族に出会うという流れが毎話続いていくという構成だったところにある。元々が連作短編集の作りになっていることもあり、殺された女性となんらかの形で関わりのあった人間のアリバイを追っていくうちに意外な真相にたどり着くのだが、「人は嘘をつく」という不穏な語りから入るものの、その嘘はつねに誰か自分にとって大切な人を守るためにつかれたものであり、最後は少しほっこりする。このマイルドな味わいが、人形町の風情のある街並みもあってか、連作の落語を楽しんでいるかのようで、放送されたドラマ枠の日曜劇場ともマッチしていた。
これがSPドラマや映画になると、やや陰惨なテイストが濃くなる。特に完結編となる映画『祈りの幕が下りる時』は、『半沢直樹』(TBS系)等の池井戸潤作品を日曜劇場で手がけている福澤克雄が監督したこともあってか、重厚な作品となっており、まるで野村芳太郎が1974年に監督した松本清張原作の映画『砂の器』の現代版とでも言うような迫力だった。ちなみに福澤克雄は2004年に放送されたドラマ版『砂の器』(TBS系)のチーフ演出も務めている。
同時に本作が面白いのはシリーズ完結編を謳っていることもあってか、『新参者』等の映像作品を裏側からなぞったような総決算的な物語となっていることだ。