市原隼人の演技はなぜ変化し続けるのか? 『無限の住人』のあくなきアプローチを読む
4月29日公開の映画『無限の住人』や、現在放送中の連続ドラマ『リバース』(TBS系)、さらに今年のNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』など出演作が相次いでいる俳優・市原隼人。『無限の住人』では、仁義も道理もない残虐非道な剣客・尸良を演じるにあたって、役作りとして「ハイエナが捕食する動画をみていた」と語り、会場を沸かせていたが、彼の作品に対する思いが如実に表れている発言だった。
2001年、岩井俊二監督の映画『リリイ・シュシュのすべて』で、繊細な少年役を演じスクリーンデビューを飾った市原。当時14歳だった彼の透明感あふれる佇まいは大きな反響を呼んだ。その後、2004年には『WATER BOYS2』(フジテレビ系)で落ちこぼれながら、懸命に頑張るシンクロ部員を好演すると、数々のドラマや映画で主演を務めるようになる。
デビュー当時の繊細さを持ちつつ、徐々に力強く熱い青年を演じることが多くなった市原。そんな彼のイメージを決定づけたのがドラマ『ROOKIES』(TBS系)の安仁屋恵壹役だろう。劇場版にもなった本作は、興行収入85億円を記録する大ヒットとなり、市原の知名度も大きく上がった。
その後も、数々の作品で色々な役柄を演じるも、映画『ボックス!』やドラマ『猿ロック』(読売テレビ系)など、エッジの利いたキャラクターは、市原の代名詞のようになっていく。その最たるものが、三池崇史監督とタッグを組んだ映画『極道大戦争』だろう。本作で市原はバンパイアにかみつかれたヤクザを演じ、バイオレンスの限りを尽くす。あまりに過激すぎて、お蔵入りになったシーンが数多くあったという。
こうした作品のインパクトは非常に強く、デビュー当時の繊細で感度の高いイメージは影を潜めるようになる。上記作品と同じ流れを汲んでいるのが、『無限の住人』の尸良だ。本人が「己の快楽のみを追求する男」と表現した尸良は、まさに人でなしで救いようがない。現場でも、「ハイエナ」のようにテンションを上げて臨んでいたという。
一方で、大河ドラマの傑山も、尸良同様、屈強な男ではあるが、こちらは熱い思いを胸に秘め、冷静に物事を見極める“静”の男を演じている。ビジュアル的には尸良と似ているが、その実は全く違うキャラクターを演じ分けている。
また昨年放送された連続ドラマ『不機嫌な果実』(テレビ朝日系)では、原点回帰的な、市原の繊細な色気をまとった音楽評論家を好演。多くの視聴者が、市原の“カッコよさ”に魅了された。さらにラストでみせた衝撃の怪演は大きな話題となった。