『トワイライト・ウォリアーズ』吹き替えの配役に涙 往年のカンフーファンを唸らせる傑作

2025年最も熱い映画暫定No.1の『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』。筆者はすでに2回劇場で観ているが、吹替版が公開されると聞いたら、また観に行かざるを得ない。

「外国映画は字幕派」であっても、カンフー映画だけは吹替版をおすすめする。ハイスピード・アクションと字幕を同時に完璧に追えるほど、人間の動体視力は優れていないからだ。アクションは目で。セリフは耳で。分業化するのがベストだ。
そもそもある年代以上の人間にとって、カンフー映画との初めての出会いは『金曜ロードショー』や『ゴールデン洋画劇場』だったはずだ。すなわち、ジャッキー・チェンは石丸博也であり、サモ・ハン・キンポーは水島裕であり、ユン・ピョウは古谷徹だった。そのため、初めて劇場でジャッキー映画を観たときには、強烈な違和感があった。
ただ吹き替えの場合、「演者と声優のイメージが合わないと辛い」という難点がある。ゲスト声優と称して非声優が起用された場合などに、往々にして“事故”が起こる。イメージと合致するかどうかは、観てみないとわからない。

配役を見てみよう。龍捲風(ロン・ギュンフォン/ルイス・クー)に堀内賢雄、陣洛軍(チャン・ロッグワン/レイモンド・ラム)に小林親弘……。この2人は、アニメ版『ゴールデンカムイ』における菊田特務曹長と杉元佐一だ。菊田は杉元にとっての恩人であり、本作における龍兄貴と洛軍の関係性との共通点もある。いいキャスティングだ。
龍兄貴はカタギではないが、九龍城砦のすべての住人にとって“慈父”のような存在である。単純にドスの効いた声ならいいわけではない。老人や子供に対する声音は、限りなく優しい。それでいて威厳も兼ね備えていなければならず、難しい吹き替えである。堀内賢雄演じる龍兄貴は、完璧に龍兄貴だった。さすが、ブラッド・ピット本人が認める専属声優である。
龍兄貴と洛軍の絡みは、名シーンばかりだ。冒頭、吸っていた煙草を上に弾き、まだ仲間になる前の洛軍を捨て身技で投げ、肩を外す。そしてネックスプリングで飛び起き、煙草が落ちる前に二本指でキャッチする。この一連のムーブがあまりにもカッコよく、この時点ですでに傑作決定である。上映開始20分ぐらいでとてつもなく面白いことを約束されてしまい、あとは前のめりで見入るばかりとなった。

そして、立ち上がった洛軍を龍捲十八掌(技名はアクション監督・谷垣健治のX(旧Twitter)より。いわゆる正拳中段突き)で吹き飛ばす。この中段突きを打ち終わった直後のポーズが、また絵になるのだ。事実、「ルイス・クー」で検索しても「トワイライト・ウォリアーズ」で検索しても、この画像がすぐにヒットする。
単に絵になるだけではない。打ち終わりの拳を見てほしい。小指側が上を向くぐらい、捻り込んで打ったことがわかる。これはボクシングでいうところの「コークスクリュー・パンチ」である。ただまっすぐに腕を伸ばすのではなく、肩から拳まで捻り込んで打つことにより、打撃の威力が上がる。内側に絞り込むように打つため、脇が締まり、パンチも流れない。ボクシング漫画の金字塔『あしたのジョー』において、ホセ・メンドーサがカーロス・リベラを再起不能に追い込んだパンチとしても有名だ。洛軍はまだ仲間ではなかったのに、骨を折るのではなく、治りやすい脱臼にとどめるところも慈悲深い(ただ脱臼は、癖になると厄介だが)。
龍兄貴が洛軍におごる叉焼飯が、実に旨そうである。がっつく洛軍を見る龍兄貴の目が、また優しい。洛軍が犬っぽいので、愛犬を見守る飼い主のようでもある。また、理髪店を営む龍兄貴が、小汚い洛軍のヒゲを剃ってやるシーンも趣深い。誰も信じられない野良犬のようだった洛軍が、刃物を持った他人に無防備な喉元をさらけ出せるまでになったのだ。「ここ(九龍城砦)に来て、初めてぐっすり眠れた」というセリフも相まって、やっと心から信頼できる先達と友人を得た洛軍の、頭を撫でてやりたい(洛軍は犬だから)。




















