『トワイライト・ウォリアーズ』はなぜヒットしたのか? 不変の香港映画マインドがここに

『トワイライト・ウォリアーズ』なぜヒット?

 『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』(2024年)が大変だ。日本国内で異例の大ヒットを飛ばしている。洋画不況が叫ばれ、全米No.1ヒットのハリウッド超大作に閑古鳥が鳴くことも珍しくない昨今、小規模公開で始まった外国映画が、ここまで話題なのは奇跡的と言ってよい。少なくとも村は完全に出来上がっている感があるので、村社会現象くらいは確実に起きている。果たしてなぜ同作はここまでヒットしたのか? 今回の記事では『トワイライト・ウォリアーズ』が多くの人々の心を捉えた理由を分析しつつ、その魅力を総括していきたい。

 まず私は『トワイライト・ウォリアーズ』の最大の魅力として、アンサンブル映画的な面を挙げたい。本作には個性豊かなキャラクターがいっぱいだ。主人公格である陳洛軍(レイモンド・ラム)を含む“城塞四少”こと、信一(テレンス・ラウ)、四仔(ジャーマン・チョン)、十二少(トニー・ウー)。この4人組が素晴らしい。陽気でハンサムな信一、寡黙でマッチョな四仔、末っ子気質な十二少、そこに素朴で真っ直ぐな陳洛軍が加わることで、ある種の完成されたボーイズグループ的な魅力を放っている。なお、この4人と敵対する立場であるが、悪役の王九(フィリップ・ン)も、4人と共に「若手」という同じ箱に入っていると言っていいだろう。主役が“個人”というより“グループ”なのは、間違いなく本作の個性だ。

 たとえば同じ香港/功夫映画でも、ブルース・リー映画はブルースが、ジャッキー映画はジャッキーが、良くも悪くも映画を支配している。そういったスター映画に対して、本作は見事なまでの全員野球映画である。もっとも、よくよく考えるとジャッキーだって、『プロジェクトA』(1983年)や『スパルタンX』(1984年)でサモ・ハンやユン・ピョウらと組んだ際に、アイドル的な人気が爆発し、3人そろって日本武道館で歌っていた。やはりグループ活動には、ソロでは出せない+αの魅力が付与されるものなのだろう。

 さらに本作にはオールスター映画の側面もある。特にベテラン勢が演じる兄貴世代は大物ばかりだ。サモ・ハンやルイス・クーなど、主演でも全然おかしくない。キャスト陣の豪華さで言えば、傑作『インファナル・アフェア』(2002年)並みのオールスターぶりだ。そして『トワイライト・ウォリアーズ』は小説/漫画を原作としているのが良い方向に作用した。『インファナル・アフェア』は超豪華キャストなのだが、シリアスな現代劇なのでビジュアル面の誇張ができない。このため俳優を知らないと、どうしてもキャラの区別がつき辛いのだが……。対して『トワイライト・ウォリアーズ』は誇張全開だ。ビジュアル面でも大いに個性を出せている。親しみやすい龍兄貴(ルイス・クー)、伝統的な秋兄貴(リッチー・レン)、シャレたTiger兄貴(ケニー・ウォン)に、分かりやすいシルエットを持つ大ボス(サモ・ハン)。いわばマンガで言うところの「描き分け」ができているのが圧倒的に強い。もちろん、このビジュアル面の魅力は若手たちにも言える。

 もちろん「九龍城砦」という舞台にも強烈な訴求力がある。いわゆる廃墟マニアやダークツーリズム的な観点から、世界的に高い知名度を誇り、日本の数々のサブカルチャー作品にも大きな影響を与えた場所だ。1993年に取り壊されているが、逆に言うと30年前までは実在したのである。ゆえに中途半端な再現は許されなかったのだろう。美術周りも徹底しており、その精巧なセットは、スクリーンを観ているだけでワクワクしてくる。アジア・フィルム・アワードで美術賞を受賞したのも納得だ。ちなみに私は香港で開催されている撮影で使ったセットの展示に行ったのだが、見物客の中には本物を見ていたであろう高齢者も多く、楽しそうに過ごしていた。当時を知る人を納得させるレベルなのだろう。

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