市原隼人、いつから“不倫ドラマ”似合う大人の俳優に? その大胆な変化を辿る

 市原隼人が19年ぶりに復活を遂げた林真理子原作の不倫ドラマ『不機嫌な果実』(テレビ朝日系)で、栗山千秋の不倫相手役を演じることが話題を呼んでいる。19年前に放送された際は、石田ゆり子と岡本健一によるドロドロの不倫関係と大胆な濡れ場が話題となった本ドラマ。今回は、夫に女として見られなくなった主人公を栗山千明が演じ、情熱的な音楽評論家で栗山の不倫相手役になる男を市原隼人が演じている。

 栗山千明の大胆な演技も楽しみだが、あの市原隼人がどうやって禁断の愛を演じるかも気になるところだ。日本の俳優の中でもストイックに役に入り込み、熱血漢のイメージが定着している市原だが、2016年に入り、落ちついた大人の役で、円熟味の増した演技を見せている。そもそも市原隼人は繊細な少年が似合う役者だったが、いつから強面の熱い俳優になったのだろうか。

 市原が衝撃的な初主演を飾ったのは、2001年の『リリイ・シュシュのすべて』。岩井俊二監督の息を飲むほど美しい映像世界の中で、カリスマ的アーティスト、リリイ・シュシュに心酔する中学2年のいじめられっ子の役を演じていた。紙の端きれで指を切るような繊細で影のある演技は、その後のドラマ『ヤンキー母校に帰る』(TBS)でも発揮された。2003年の映画『偶然にも最悪な少年』では、いじめられてもずっとヘラヘラ笑っているが、躊躇なく過激な行動にでる少年の役を演じた。その明るさがむしろ痛々しい演技で、思春期特有の内に秘めたるモヤモヤと狂気が滲み出ていた。

 そんな影のある役から覚醒したのが、2004年のドラマ『WATER BOYS2』(フジテレビ系)だろう。男子シンクロ部の一員として、まだまだしい可愛らしさはあるが、熱い男の一面を見せ、俳優として新境地を切り拓いた。これ以降、年齢的なこともあるが、繊細な少年から“ヤンチャだけど実はいい奴”な青年へと進化を遂げて行く。

 演技の転換期として2008年の映画『神様のパズル』が挙げられる。市原は、優等生の弟とヤンキーで落ちこぼれな兄の双子を演じていて、海外旅行に行く弟と無理矢理入れ替りで兄が大学のゼミに参加し物語が進んでいくのだが、弟を演じているときは以前の影のある市原、兄を演じる時はその後の熱血漢で強面な市原を想起させた。この演じ分けが、役者としての人格も入れ替わったターニングポイントとして考えると面白い作品だ。そして、同年の『ROOKIES』でのリーダー的存在のピッチャー安仁屋役につながり、熱い男というイメージが世間に定着していく。

 市原は、作品を演じている期間、公私ともにその役に成りきるほど役作りにストイックだという。2013年のドラマ『カラマーゾフの兄弟』(フジテレビ系)では、父親殺しの容疑をかけられた感情を表に出さないクールな弁護士役の役作りのために、1日1個の飴玉で過ごして体重を49キロまで落とした。その体重を落とした理由が、「狂気の向こう側を見たかった」からだと言うから驚きだ。また雑誌のインタビューで、「市原さんが今一番手に入れたいものは」と聞かれた際は、「「闇」が欲しいですね。苦痛が欲しい。ストレスが欲しい。人を疑いたい……。この役を演じるうえで、今の自分に必要なものだと思うので」(「ヌメロ・トウキョウ」2013年3月号より)と答えている。ハリウッドにはロバート・デ・ニーロやクリスチャン・ベールのような役作りに狂気を感じる役者はいるが、日本の若手でここまで考える役者はなかなかいないだろう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる