西島秀俊「俺たちに、勝ち目はあるのか?」が示す意味 『CRISIS』兄弟の悲しすぎる結末を読む

『CRISIS』兄弟の悲しすぎる結末

 「俺たちに、勝ち目はあるのか……」。4月25日に放送された『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(カンテレ・フジテレビ系)の第3話。冒頭5分で、贈収賄事件に関与した疑惑の議員・浜尾が、顔を隠した3人組の男らに突如襲われ、報道陣の前で射殺された。犯人は権力の悪用を断罪する謎のテロ集団“平成維新軍”。あまりにスピーディーな展開に衝撃を受けた視聴者は少なくないはずだ。

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 今回の事件は、5年前に起きた証券会社がらみの利益供与事件と関係していたことが後に明かされる。当時、証券会社との不正取引に関与したとされる黒須議員の第一秘書・藤崎康正が自殺したことで、事件はうやむやになり闇に葬られた。その自殺した秘書・藤崎の息子兄弟が“平成維新軍”に唆され、今回の犯人となってしまった。というのが大まかな流れだ。

 疑惑の議員・浜尾は、“大人の汚さ”を象徴するかのような存在で描かれた。自身の事件のニュースを見て悪態をつき、自宅前に集まっているであろうマスコミたちを逆に利用しようと計画を企てる浜尾。外の様子を秘書に確認させ、幼稚園児の集団とちょうど出くわすタイミングを見計らって家を出る。狙いどおりに通りかかった園児たちに、笑顔で丁寧に挨拶を交わし、極め付けに「これが日課なんでね」の一言を添える徹底ぶり。“いい人”という印象を世間に印象づけるために、マスコミのカメラすらも最大限に利用するずる賢さを覗かせた。

 5年前の利益供与事件でもちゃっかり利益を得ていたり、殺してくれた犯人に感謝していると発言する人がいたりと、殺されても同情できないほどの“悪”であったことが垣間見える浜尾。また物語は、浜尾だけでなく政治家や官僚など政府全体を“闇”として映し出していく。

 “平成維新軍”のテロの続行を知らせる犯行声明により、政府や官僚たちにSPをつけることになったという情報を得た公安機動捜査隊特捜班。「私腹を肥やしてる連中に更に税金を投入するってわけね」という大山(新木優子)の言葉に対して「人の命は地球より重いってわけさ」と続く樫井(野間口徹)。さらには政界を「秘書の自殺は“トカゲの尻尾切り”の同義語」と皮肉る。“地球より重い命”はほんの一部の限られた人間で、あとの命はトカゲの尻尾くらいの価値いすぎないことを象徴しているかのようだ。

 一方で、犯人である藤崎兄弟の正一(堀家一希)と誠二(西山潤)や、大畑組組長の息子・譲(大和孔太)は“汚い大人”たちとは対照的な存在として描かれていた。悪でも正義でもなくただ純粋な心を持つ“少年”として。たとえば、ご飯を食べる際にきっちり手を合わせて「いただきます!」と照れながら笑い合う姿や、実は関係のない人たちは誰も傷つけていない犯行、譲が父(大畑組組長)の自分を想う言葉を聞いて動揺する様、黒須元議員を殺そうとするも孫の前での“優しいおじいちゃん”の顔を見て迷いが生じる藤崎兄弟など、心を持つ人としての温かさが伺えた。(殺人の動機も根本は父親の復讐)

 また、自らの保身や利益のために誰かを身代わりにし、切り捨てていく政界に対して、自身を犠牲にして藤崎兄弟を逃す譲や、お互いにかばい合いながら逃げる藤崎兄弟の姿は、対極な存在であることを際立たせると同時に、視聴者に“犯人への共感”を植え付ける。

 言葉を発さずとも通じ合う藤崎兄弟。お互いの目を見て、頭を動かすだけで意思疎通できる。それゆえに最期は「兄ちゃん」「ごめんな。誠二」という言葉だけで確認を取り合い、覚悟を決めてしまう。ふたりで声を揃えて「この国の未来のために!」と叫びきった瞬間に、互いの頭を銃で撃ち抜き心中するのだ。兄弟どちらかだけが裏切ることはできない。両親が亡くなっているふたりにとっては家族は互いだけであり、唯一無二の存在だ。撃たなかったら生き残った方が自身を一生攻め続けることは容易に想像がつくし、そもそも浜尾を殺した時点で“復讐”が終わったら心中しようと考えていたのかもしれない。だから、未来ある譲には人を殺めさせず、実行前後の協力だけしてもらい、またどちらかだけが罪を背負わないようにあえてふたりで浜尾を撃って射殺したのではないかと深読みしてしまう。

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