堅実な『99.9%』と自由な『ラヴソング』ーー“視聴率のジレンマ”に揺れた春ドラマを総括

 6月も残りわずかとなり、春スタートの主要ドラマが終了。視聴率では『99.9―刑事専門弁護士―』(TBS系)の独壇場だったが、SNSがヒートアップした『世界一難しい恋』(日本テレビ系)、『僕のヤバイ妻』(フジテレビ系)、ドラマ通をうならせた『重版出来!』(TBS系)、深夜に新たな風を吹き込んだ『毒島ゆり子のせきらら日記』(TBS系)など、話題豊富な3か月間だったと言える。

 そんな悲喜こもごもの中で目についたのは、“堅実”と“自由”の間で揺れる制作サイドの姿。「録画機器や視聴デバイスの発達で、指標として疑問の残る視聴率を獲得しなければいけない」というジレンマが、制作サイドを堅実な作品に走らせた。

 その筆頭が視聴率トップの『99.9%』。弁護士ドラマと思いきや中身は刑事ドラマそのもので、松本潤、榮倉奈々、香川照之の強力なトリオをベースにした1話完結であり、事件も謎解きもオーソドックス。回を重ねるごとに深掘りされる連ドラと言うより、1時間の舞台を観ているような……いかにもリアルタイム視聴者に好まれる「サクッと楽しむ」作品だった。

 同様に、『世界一難しい恋』も、大野智と波瑠という強力なコンビを生かすべく、ライバルのいない1対1の構図を貫いた「見やすさ重視」のラブコメ。個性的な主人公の笑いとキュートさを全面に押し出すことで、リアルタイム視聴者を手堅く集める作品だった。

 『お迎えデス。』(日本テレビ系)も、福士蒼汰と土屋太鳳のコンビ、漫画原作、命を扱う感動ストーリーなど、土曜21時の視聴率を手堅く取るためのベースがしっかり。また、視聴率は惨敗に終わったものの、『OUR HOUSE』(フジテレビ系)が、芦田愛菜が率いる子役オールスターとシャーロット・ケイト・フォックス、「交際0日婚」の山本耕史を役で再現、脚本に野島伸司を起用したのは、「まずは堅実に視聴率を獲りにいった」という気持ちの表れだった。

 視聴率を強烈に意識した堅実な作品が目立った一方、「とことん自由を追求しよう」という作品も続出。『ラヴソング』(フジテレビ系)は、初演技のヒロイン・藤原さくらと、初連ドラの脚本家・倉光泰子の起用。吃音に悩む女性の成長と、年の差恋愛という難テーマを採用。劇中にドラマから浮きかねない歌唱シーンをふんだんに盛り込むなど、制作サイドの強い思いを感じずにはいられない作品だった。もちろん福山雅治をメインに据えて高視聴率を目指していたが、それでも脚本・演出・キャストのすべてが自由な発想のもとに組み立てられていたのは間違いない。

 『コントレール~罪と恋~』(NHK)も「夫を殺した男との恋」というエキセントリックなテーマに、叙情的な映像を絡め、女性向けセクシービデオのようなベッドシーンを連発するなど、かなりの自由さ。ポップな世界観を好む現代視聴者に迎合せず、90年代のようなヘビーさを全面に漂わせたのは、「私たちはこれが作りたいんだ!」というメッセージではないか。

 パラレルワールドのような世界観の『トットてれび』(NHK)、斜め視点からゆとり世代をシニカルに描いた『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)も、制作サイドがバイアスフリーの姿勢で臨んだ様子がハッキリ。「視聴率を獲れるものを作る」よりも、「まずは自分が納得できるいいものを作る」という優先順位が垣間見えた。

 振り返れば冬ドラマは、「『いつ恋』も『ダメ恋』もハッピーエンドに 冬ドラマ最終回の“傾向”を読み解く」で書いたようにハッピーエンドが多く、視聴者への配慮が徹底されていた。(参考:『いつ恋』も『ダメ恋』もハッピーエンドに 冬ドラマ最終回の“傾向”を読み解く

 しかし、そこで「今後はハッピーエンドばかりにならないだろう」と予想したことが、春ドラマで早くも現実になった。『ラヴソング』『僕のヤバイ妻』『コントレール』『火の粉』(フジテレビ系)の結末は、「安易なハッピーエンドを避けよう」という制作サイドの意志表示そのもの。「こういう結末のほうが面白い」と視聴者に提示する自由さを取り戻したとも言える。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる