『あんぱん』『カムカムエヴリバディ』“あんこ”がある朝ドラは名作? 思いをつなぐ象徴に

3月31日から放送を開始した連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合)。ヒロイン・のぶ(永瀬ゆずな)の少女時代が第2週で終わり、本役の今田美桜がいよいよ登場する。
『アンパンマン』の作者として知られるやなせたかしさんとその妻・暢さんの夫婦をモデルに、自由闊達なヒロイン「はちきんおのぶ」の半生を描く、朝ドラ112作目の本作。モデルであるやなせさんと暢さんは戦後、ふたりの職場であった高知新聞社で出会うのだが、『あんぱん』では史実を“大胆”にアレンジ。嵩(木村優来/北村匠海)とのぶは幼なじみという設定になっている。したがって、ふたりの小学生時代から始まる導入の「のぶパート」はほぼフィクションで構成されている。
「あんこ」が詰まったパンだからこそのポピュラリティ

小さな子どもとその親、そしてかつて子どもだった人、多くの日本人が知っているヒーロー、アンパンマンの「自分の顔(あんぱん)を人に与え、幸せを配る」という行動。このモチーフが、『あんぱん』第1週・第2週の「大胆なアレンジ」の中で何度となく登場している。
商社で働いていたのぶの父・結太郎(加瀬亮)が心臓発作を起こして船の上で亡くなり、悲しみに暮れる朝田家を明るく照らしたのは、「ヤムおんちゃん」こと屋村(阿部サダヲ)が作った、焼きたてのあんぱんだった。
自分と弟を伯父の家に預けて再婚した母親・登美子(松嶋菜々子)に会いに行った嵩は、母から拒絶され、帰り道に途方に暮れてへたり込む。そこへ“ヒーロー”のごとく現れたのぶが、嵩にあんぱんを差し出す。嵩はあんぱんを夢中で頬張りながら、力をもらう。
最愛の父を亡くしたのぶと、最愛の母と生き別れになった嵩。ふたりの物語は、喪失から始まった。史実に「大胆なアレンジ」を施して、のぶと嵩は「あんぱん」を介した運命の人どうしである、という作劇がなされている。そして“元ネタ”である「アンパンマンの顔」と同じく、あんぱんが傷ついた人の心を癒し、生きる力をチャージさせるアイテムとして扱われている。

そこでふと考えてみる。嵩のモデルであるやなせたかしさんの代表作の主人公の顔が、もしも他の種類のパンだったなら、どうだったか。ここまで有名な作品になっていないのではないか。そして、作者とその妻をモデルとした朝ドラが誕生することもなかっただろう。日本人のソウルフードである「あんこ」が詰まったパンだからこそ、『アンパンマン』のポピュラリティは生まれたのだ。
あんこが持つポピュラリティは、国民的ドラマシリーズである朝ドラと親和性が高い。あんこが物語の重要なアイテムとして扱われたり、あんこが象徴的で大事なシーンに登場する朝ドラは多いのだ。現在昼12時30分から再放送中の『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期)はその顕著な例である。




















