成馬零一の直球ドラマ評論『ゆとりですがなにか』
ゆとり世代と団塊の世代の対話は何を示す? 『ゆとりですがなにか』第七話で描かれた心の弱さ
男たちの“自分の弱さをさらけ出せない心の弱さ”が描かれた『ゆとりですが』第七話。今までは坂間たちゆとり第一世代と後輩のゆとり世代との間にあるコミュニケーションギャップ見せようとしてきた本作だが、今回はゆとり世代にとっては父親の年代にあたる年長世代の悩みや苦労が描かれた。(メイン写真 『ゆとりですがなにか』第七話 場面写真)
物語冒頭、取引先の弁当屋で食中毒の騒動が起こる。後輩の山岸ひろむ(太賀)が再び失踪したため、坂間正和(岡田将生)は上司の早川(手塚とおる)と共に担当の野上(でんでん)の元へと向かうのだが、すでにライバル会社の社員が駆けつけていた。みんみんホールディングスの手羽先か、ライバル会社のシューマイ、どちらが食中毒の原因かと言い争う中、両社からの発注を受けすぎて、冷蔵庫に食材が入らなくなったため、自然解凍していたと語る野上。ライバル会社は、未払い料金の300万円を受け取らない代わりに責任を逃れようとする。一方、早川は野上に恩を売ることで、独占契約を強固なものにしようとしていた。
当初はゆとり世代を毛嫌いする上司という典型的な大人として描かれていた早川だったが、「伝説の営業マン」と呼ばれていた営業能力を、ここに来て発揮する。野上の謝罪会見を手伝う姿は、本作で繰り返し語られてきた「泥仕事」そのものだが、そんな泥仕事を見事やりとげることで、みっともなさの中にある大人のカッコよさを見せる。
一方、坂間の元恋人の宮下茜(安藤サクラ)の父・重蔵(辻萬長)が佐賀から上京してくる。地元の名士だった重蔵は、妻の死後は老け込んでいた。定年後は再雇用でスクールバスの運転手となったが、一昨年小さな事故を起こしており、老いていく自分を受け入れられず「イメージする自分と衰えゆく自分とのギャップ」に落ち込む日々を送っていた。
定年退職した団塊の世代が第二の人生を歩もうと新しい職場や趣味に向かうが、昔のプライドが邪魔して上手く仲間に溶け込めないという話はよく聞くが、おそらく重蔵もまた、老いていく自分を受け入れられず、その苛立ちを茜たちにぶつけていたのだろう。坂間は、結納を強引に進めようとして自分たちの意見を聞こうとしない重蔵を批判する。そして、すでに茜とは別れたと言ってしまう。
結婚は破談となったが気持ちが楽になったのか、坂間と語り合う重蔵。自分たち年寄りは、若者に対して劣等感があり脅威に感じている。だから「ゆとり世代」とひとくくりにして一人一人と向き合うことを避けていると、自分の心境に告白する。
一方、山路一豊(松坂桃李)は、若山奈々江(石橋けい)の離婚理由が、前の小学校の担任と不倫だったと知ってショックを隠せない。前回、色恋が絡む人は変わってしまうと恋愛に対する不信感を口にしていた山路。好意を寄せてきている元・教育実習生の佐倉悦子(吉岡里帆)に対しても、前の彼氏とのことがあったせいか腰が引けていて、こういうところは童貞丸出しだ。
そんな生々しい男女の話と並行して描かれるのが、学習障害の大悟を教師としてどう受け止めるのかというテーマだ。父兄参観の日、離婚した大悟の父親が学校にやってくる。中々計算が進まない大悟を見て、苛立った父親は、黒板の前に出て大悟の変わりに解こうとするが、山路は止める。
「チャイム鳴っちゃうでしょう」
「それでいいんです。さぁ大悟、もう一回掛けてみよう」
「大悟! 大悟!」大悟を応援する子どもたち。
「ダメな自分を認めさせちゃったわけでしょ、周りに。それって凄い勇気だと思うよ」大悟の話を聞いた宮下茜はこう言う。そして重蔵と大悟の姿を重ねて「もっとさらけだせばいいんだよ。ダメな自分を」と言う。
同じことを言われるのが坂間の後輩の山岸だ。坂間たちが奔走している時、再び失踪してしまう山岸。逃げ込んだ田之上家では、「いちいち来られたら困るんです。息子のようには思ってるけど、息子じゃないしね」と明子(真野響子)から言われるが、その言葉は穏やかで優しいものだ。明子は「やればできる子なんていない。迷信よ。あんた達はね。やらなきゃできない子なの」と山岸に言った後、「って何で言えなかったんだろうな。あの子に……」と自殺した息子のことを思い出す。