『映画 ハイ☆スピード!』はなぜ“前日談”を描いたのか 京都アニメーションの大胆な挑戦

『映画 ハイ☆スピード!』の挑戦を読む

 2015年を振り返ってみると、日本のアニメーションの勢いは一向に衰えを知らない。夏に公開された『ラブライブ! The School Idol Movie』は興行収入28億を超える大ヒットを記録し、今年を象徴する映画となった。また11月最終週の動員ランキングでは『ガールズ&パンツァー劇場版』が2週続けて2位を維持しており、まもなく訪れる年末の大作シーズンに控える東宝配給の『妖怪ウォッチ』と『ちびまる子ちゃん』という大型アニメ映画に、まだまだ伸び盛りの市場規模を持つ深夜アニメの劇場版がどこまで善戦できるか注目したいところである。

 そんな中で、現在のアニメーション業界で最高のクオリティを提供する京都アニメーションが満を持して発表したのが『映画 ハイ☆スピード! -Free! Starting Days-』なのだ。一昨年の夏、昨年の夏と二期に渡って放送された水泳アニメの前日談を、あえてこんな寒い季節に劇場で流すなんて、かなり無謀な挑戦にも思える。まして、テレビシリーズで監督を務めた内海紘子に代わり、劇場版で監督を務めたのが、あの武本康弘だと知ったときはどんな作品に仕上がるのかということよりも、上映尺が気になって仕方がなかった。何せアニメ映画としては異常とも言える、162分というとんでもない長さで制作された『涼宮ハルヒの消失』の監督であるからだ。結果的に、110分という至って普通の長さの作品に落ち着いており安心したわけだが、それでも近作の一般的なアニメ映画は100分を切る作品が多かっただけに、少し長めの仕上がりであることには変わりない。

20151206-hispeed-02-th.jpg

 

 テレビシリーズでは高校時代の主人公たちを描いていたが、今回の映画版で描かれるのはそれよりも4年ほど前に遡った中学時代の物語である。もともと原作のライトノベルでは1巻で小学生時代、2巻で中学生時代を描いていたので、テレビで描かれていたのはその先の物語。メインストーリーである高校時代に、小学生の頃の回想を織り交ぜていたものの、中学時代についてはまったく触れられてこなかっただけに、今回の映画は原作を読んでいるファンからしてみれば待望のアニメ化なのである。そして何より、まだテレビシリーズを観ていない人でも、ある程度のキャラクターを把握しておけば、ここから入ることが可能な親切設計なのである。

 新規でも入れると今言ったばかりではあるが、やはりテレビシリーズを観てから観るに越したことはない。中学に入学した遙と真琴が通学路を歩く序盤のシーンで象徴的に描かれる桜の花を見ると、1期2期と続いて登場した桜の花びらが浮かぶプールを想起させるし、テレビシリーズでメインの登場人物だったキャラクターのカメオ出演のようなさりげない登場の仕方にはやはり高揚してしまうのである。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる