シソンヌ・じろうが語る、小説を書く/コントを演じる上で意識していること「意地悪な目線とかイジる目線では決して描かない」

シソンヌ・じろうの短編集『あの子が故郷に帰るとき』(双葉社刊)が、現在、好評発売中だ。
本著は、2018年に発刊された『サムガールズ -あの子が故郷に帰るとき-』を文庫化したもの。女性の写真と名前、居住歴、年齢から、じろうが想起した10遍の物語は、不器用ながらもやりたいことに全力で向かっていく女性の姿がパワフルに描かれている。さらに、新たに書き下ろされたあとがきにはハッとする言葉も。じろうに執筆当初の思いや現在一番大事にしていることなどを語ってもらった。
短編集執筆は後悔した?

――文庫化のお話をいただいた際の率直な気持ちを聞かせてください。
じろう:「別にいいですよ」と二つ返事でしたね。もっと早く動けばよかったんですけど、「シソンヌライブ」のネタを作る時期と重なってしまって。いただいた赤字を確認しなきゃいけなかったんですけど、サボっちゃって、やべっ、もう締め切りだと思いながら、あとがきを書き加えました。
――本著は2018年に発刊された『サムガールズ』を再構成した1冊ですが、軽い気持ちで連載の執筆依頼を受けて、思ったよりも大変で後悔したと、当時話されていました。
じろう:基本的になんでも軽い気持ちで引き受けて、なんてしんどいんだろうって後悔するのが僕の常なので、これもそうだったということですね。確かに「大変だ……」と思いながら書いてましたね、当時。毎回、締め切り直前に取り掛かっていた気がします。
この小説は女性の写真と名前、居住歴、年齢から物語を考えるというもので、大体、見た目とか第一印象からこういう人かなと想像しながらキャラクターを作っていきました。
――例えば、1話目の「ハサミと一輪車」はプロフィールに一輪車と書いてあったわけではない。どこから一輪車が出てきたんですか。
じろう:顔を見て、一輪車に乗ってそうだと思ったのかな。……いや、違うな。確かこの方の居住歴に福島と山形があって、調べたらどちらかが一輪車が盛んな街だったんです。僕の地元にも、やたら一輪車が強い小学校が1校あって。これ、東北の田舎の小学生あるあるなんですよね。
――冬が寒くて雪深いから、体育館でできるスポーツが盛んになると。
じろう:そうです、そうです。だから、物語に取り入れたんだと思います。
女性への温かな眼差しと、思いもよらない人生の展開
――じろうさんはコントでも女性を演じることが多いですが、女性を描く上で意識しているのはどんなところですか。
じろう:なんでしょうね? コントに関しては、ちゃんと女性として面白く見えるようにしてるんだと思うんですけど……。これは自然とそうしていることですけど、女性の役で笑いを取るときは意地悪な目線とかイジる目線では決して描かない。これは意識していることかもしれないですね。
女性の面白いところっていっぱいあるんですよ。化粧するところもかわいいと思っちゃいますし、オシャレするところもかわいいと思っちゃう。外へ出るために自分の顔に色を付けるなんて、どうしようもなくかわいいじゃないですか。だって、自分の顔に絵を描いて出かけるんですよ? しかも、綺麗にしたいという理由で、いい匂いもさせて。男性の僕にはわからない感覚だけど、そういう良さをちゃんと褒め称えたいと思うんですよね。
――確かに綺麗になりたいってポジティブで素敵ですよね。
じろう:うん、そう思います。単独ライブで、「相棒」のクラシックコンサートを題材にしたコントをやったことがあったんです。ネタにさせてもらうからにはちゃんと観に行こうと思って足を運んでみたら、女性の方々がみなさん、おめかしして来ていて。綺麗な格好で、次々に演奏される「相棒」のオープニングテーマを聞いているんです。「それではシーズン2です」とか紹介されるんですけど、曲はずっと同じで。
――シーズンごとにいろいろアレンジされている。その曲を次々と演奏していくと。
じろう:僕らのネタでやっていることが実際に行われているんです。それを、娘さんと母親らしき二人組とか仲間二人で聴いていて……たまんなかったです。なんてかわいいんだろうと思いました。

――愛おしさが増すんですね。短編で描かれている女性たちはみんな、不器用ながらもアクティブでパワフルで、思いもよらない未来を手に入れていきます。
じろう:弱い人を描きたくないから、そうしているというのはあるかもしれないですね。そして、人生において、ギアを入れなきゃいけない瞬間って誰しもあるじゃないですか。だから、そういうふうに描いたのかもしれないです。
――じろうさん自身、人生が思いもよらない方向に転がったなと思う瞬間はありますか?
じろう:全部そうですよ。シティボーイズになりたくて東京へ出てきて、なんとなく買い始めた「演劇ぶっく」の表紙に本多劇場という文字が書かれていて。あぁ、ここが演劇の聖地なんだと知ったんです。中には、大人計画やナイロン100℃とか劇団がいっぱい載っていて……今、そこに載っていた人たちが、演劇の聖地・本多劇場で年1回やっている自分たちの単独ライブを観に来てるんですよ? 宮沢りえさんが単独を観に来たいと言ってくれて、なんで? と思いながらも実際に来たら、僕らには会わずに差し入れだけくれて帰っていく……謎です。1回も会ったことがない有名人が観に来たいと言って来てくれたり、意味わかんないですよ(笑)。
荒川良々さんがきたろうさんを僕らの単独に連れてきて、どうなってんだ? 全部、俺の夢か? って。しかも、きたろうさん、めちゃくちゃ褒めてくれるんです。きたろうさんが「普通のことを言ってウケるのは、俺とお前だけだ」って言うと、良々さんが「じろうくんをただ褒めればいいのに、絶対、自分を入れるじゃないですか」ってツッコむ。僕の目の前で、二人がそんなやりとりをしている……どうなってんだと思いますよね。思いもよらないことだらけです。
「僕が書いたものを、僕と長谷川さんがやるのが一番面白い」
――その状況は、「シソンヌライブ」をやり続けること、新作コントを作り続けることで、自ら引き寄せているようにも感じます。「シソンヌライブ【モノクロ】」で全国を回っていた頃、子どもにコントを教えたいと話していましたが、今、実際ワークショップを開催されてるんですよね。やりたいことをどんどん叶えている印象もあります。
じろう:ただ、自分からは動いてない。いつも自然と転がっていくんですよね。ワークショップも、弘前れんが倉庫美術館で働き始めた友達が「ワークショップやらない?」って声を掛けてくれたので、やれたことで。僕の人生、出会いと縁、それだけです。やっぱり人生は人なんです。
――人生は人と言えば、今回のために書き下ろしたあとがき、胸を打たれました。
じろう:僕が今一番大事にしているのが、生で人に会うこと。その時間を大事にしたいんです。テレビとかにはあまり出てないですけど、青森のイベントとかには出るようにしていますし、今回の(発売記念)サイン会もそう(※)。今後、人と人が会わない時代が来てもおかしくないからこそ、人に会う機会を極力作っていきたい。コントも生で観てほしいですね。
※=2026年8月3日に、『あの子が故郷に帰るとき』発売記念サイン会が芳林堂書店高田馬場店にて行われた。
――今後、小説を書きたいお気持ちはありますか。
じろう:ないですね。なぜなら、僕が書いたものを、僕と(相方の)長谷川さんがやるのが一番面白いから。めちゃくちゃ面白い本を書く人はほかにもいますけど、僕と長谷川さん二人のコントより面白いものはあるか? というところに自信を持っているし、そこを突き詰めることが僕という人間の人生を全うすることなんじゃないかと思っています。とにかく、ずるいことはやりたくないですね。
――では、最後に興味を持ってくださっているみなさんへ一言お願いします。
じろう:何かやりたいと思っていることがあるなら、人生の中で1回、ギアを入れてみてください。ちょっと入れるだけで全然違ってくるものなので。僕なんてだらしないし、ルーズ。締切も守らない。ただただ流れに身を任せてきたように思うけど、どこかでギアを入れた瞬間があるから、今があると思っているんです。この本に出てくる登場人物もギアを入れている人たちばかり。彼女たちからのパワーを受け取って、ギアを入れてみてください。

◾️書誌情報
『あの子が故郷に帰るとき』
著者:じろう(シソンヌ)
価格:737円(税込)
出版社:双葉社





















