第174回直木賞候補発表 文藝春秋から葉真中顕『家族』&住田祐『白鷺立つ』がノミネート

第174回直木三十五賞候補作発表

 葉真中顕の『家族』(文藝春秋)と住田祐の『白鷺立つ』(文藝春秋)が、第174回直木三十五賞にノミネートされた。

 『家族』がノミネートした葉真中は、介護現場で起きた殺人事件を描いた『ロスト・ケア』で日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し2013年にデビュー。以降、『絶叫』『鼓動』など現代社会の歪みを鋭くえぐる作品を次々と刊行。平成後期に発覚した尼崎連続変死事件をモチーフにした今作『家族』が、初の直木賞ノミネート作となる。

 2011年11月3日、裸の女性が交番に駆け込み、「事件」が発覚した。奥平美乃(おくだいら・みの)と名乗るその女性は、半年と少し前、「妹夫婦がおかしな女にお金をとられている」と交番に相談に来ていたが、事件化を断られていた。奥平美乃の保護を契機として、表に出た「死」「死」「死」……彼女を監禁していた「おかしな女」こと夜戸瑠璃子(やべ・るりこ)は、自らのまわりに疑似家族を作り出し、その中で「躾け」と称して監禁、暴行を主導。何十年も警察に尻尾をつかまれることなく、結果的に13人もの変死に関わっていた。出会ってはならない女と出会い、運命の糸に搦めとられて命を落としていく人々。瑠璃子にとって「家族」とはなんだったのか。そして、「愛」とは。「民事不介入」に潜む欠陥を日本中に突きつけた「尼崎連続変死事件」をモチーフとした、戦慄のクライムエンターテイメント。

 『白鷺立つ』は、比叡山の〈千日回峰行〉に挑む2人の仏僧を描いた衝撃作。第32回松本清張賞受賞作にして、住田祐のデビュー作。松本清張賞受賞作がいきなり直木賞候補となるのは、2004年の『火天の城』(山本兼一さん)以来、21年ぶり。デビュー作でのノミネートは逢坂冬馬の『同志少女よ、敵を撃て』以来となる。

 玉照院の師弟は〝やんごとなき秘密〟を抱えていた。天明飢饉の傷痕いまだ癒えぬ比叡山延暦寺に、行不退――失敗すれば死といわれる〈千日回峰行〉を成し遂げようとする二人の仏僧がいた。歴史に名を残すための闘いは、やがて業火となり叡山を飲み込んでいく。

 第174回直木賞の選考会は2026年1月14日(水)に都内で行われる。

直木賞ノミネートにあたって、葉真中顕からのことば

 『家族』は現実の事件をモデルにした小説です。しかし小説の面白さが現実の面白さに依存してしまうのであれば、わざわざ小説にする意味はありません。私にとって本作を執筆することは、小説を小説たらしめるものはなにかを自問自答することでもありました。なにをどう書けば、小説である必然性が生まれるのか。どんな一行が、小説でなければ見られない景色まで読者を導くのか。私なりに試行錯誤を繰り返し、答えを出したつもりです。どうかページをめくり確かめてください。

直木賞ノミネートにあたって、住田祐からのことば

 「まさか直木賞の候補作に選ばれるとは、思ってもいませんでした。あまり期待はせず、これからも〝行不退〟の一念で書いていこうと思います。」

著者紹介

葉真中 顕(はまなか・あき)

1976年東京都生まれ。2013年『ロスト・ケア』で日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞しデビュー。19年『凍てつく太陽』で大藪春彦賞および日本推理作家協会賞を、22年『灼熱』で渡辺淳一文学賞を受賞。また『絶叫』『W県警の悲劇』はドラマ化、『ロスト・ケア』は映画化され話題を呼んだ。他の著書に『コクーン』『Blue』『そして、海の泡になる』『ロング・アフタヌーン』『鼓動』などがある。

住田 祐(すみだ・さち)

1983年、兵庫県生まれ。会社員。
2025年、本作『白鷺立つ』で第32回松本清張賞を受賞しデビュー。

■書誌情報
『家族』
著者:葉真中顕
価格:1,980円(税込)
発売日:2025年10月24日
出版社:文藝春秋

『白鷺立つ』
著者:住田祐
価格:1,760円(税込)
発売日:2025年9月10日
出版社:文藝春秋

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