紙の雑紙回帰のトレンドで広告もデジタルからアナログへ? 出版界の広告戦略をよむ

紙の雑紙回帰? 出版界の広告戦略をよむ

 アメリカの出版市場において「紙の復活」が鮮明になりつつある。パンデミック以降、デジタル雑誌のサブスクリプションは伸び悩み、SNS広告市場は飽和状態に達した。その一方で、紙媒体——とくに雑誌の広告収入が驚異的な回復を見せ、ハイエンドクライアント(ラグジュアリーブランド、美術館、ホテル、航空会社など)の出稿が急増している。

 なぜ今、紙が“再び価値ある場所”として見直されているのか。その背景には、メディア消費・広告効果・ブランド戦略の三方向から見える、いくつかの転換点がある。

 米国メディア調査会社Magnaによれば、2024年〜2025年にかけて、プリント雑誌の広告売上が前年比で二桁台の伸びを記録した媒体も出ている。特に顕著なのが、ライフスタイル誌、ファッション誌。高級旅行(トラベル)誌、建築・デザイン誌といった“ビジュアル価値”が高い領域だ。紙の雑誌広告が回復した理由として、関係者が口を揃えて挙げるのが「ブランドの世界観を“安全に”伝えられる場所の減少」である。

 SNSは即効的なリーチ力を誇る反面、炎上リスク、ブランド毀損の懸念、アルゴリズム依存、ユーザーの“ながら見”による広告効果の鈍化が言われている。対して紙媒体は、読者が誌面に集中する広告の隣に何が並ぶかを編集側が管理できる、写真の再現度が高く、ブランド価値が損なわれない、高年収読者と富裕層への到達率が依然高いという明確な強みがある。ブランドイメージを長期的に積み上げる“ブランディング広告”において、紙はデジタルでは代替できない領域を再び取り戻している。

 とくにクライアントの視点で見ると、雑誌は単なる広告掲載面ではない。「ブランドの世界観に読者を招き入れるショールーム」として機能している。紙の光沢、印刷のクオリティ、大判の誌面レイアウト、特集企画との連動。こうした物質的要素が、デジタル広告よりもブランド価値を正確に伝えると判断しているのだ。アメリカでの雑誌回帰のトレンドは、
「広告=コンテンツ」という雑誌文化の原点に立ち返った動きとも言える。広告が誌面の“美意識の一部”になって初めて、ブランドが読者の心に残る。これこそSNS広告にはない強みだ。

■Z世代の“紙への回帰”が市場を押し上げる

 興味深いのは、紙媒体の復活を支えているのがZ世代である点だ。アメリカでは、の本の購入増、ZINE文化の再燃、アートブック/写真集ブーム、大学生の紙教科書への回帰など、“物質としての本”への関心が急速に高まっている。雑誌についても、「読めるオブジェ」「部屋を飾るアイテム」「スタイルを象徴するモノ」としての価値が見直されている。
Z世代にとって紙の媒体は、部屋に置くことで自分の世界観が伝わる。SNSで“紙媒体×美的空間”を共有できる。アーカイブとして物理的に残るという理由で人気を集めている。紙の雑誌が“自己表現のトークン”として機能しはじめたことは、広告価値の復活と直結する。

 Z世代の紙回帰、デジタル市場の成熟、SNS広告のリスク増——これらを踏まえ、広告主は「安全で、美しく、価値が担保された場所」として紙を選んでいる。ただしこれは、単なる“紙への逆戻り”ではない。実際の広告戦略は、紙(ブランディング) × SNS(話題化) × EC(購買)という“多面化モデル”へと進化している。紙媒体単体が復権したのではなく、
“紙が広告戦略における最上段の位置へ再び戻った”という捉え方の方が正確だ。

 アメリカの出版関係者は口をそろえてこう語る。「紙は“信頼のメディア”として戻ってきた」「雑誌広告の価値を知る若い読者が育っている」「SNSのノイズに疲れたブランドが、紙の“静けさ”を求めている」。広告主にとって紙媒体は、長期的なブランド構築、高品質な写真表現、富裕層の読者へのリーチ、炎上しない安全性といった要素を備えた“最後のプレミアム枠”だ。

 紙雑誌の広告収入が最高益を更新する可能性すら見えるのは、この価値が揺るぎないものとして再評価されているからだ。アメリカの雑誌市場で起きている現象は、日本にも波及するだろうか。雑誌は再び、情報と美意識を伝えるもっとも上質なメディアとして、ゆっくりと、しかし確実に存在感を取り戻しつつある。

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