読めば呪われる“ホラー小説”『見つけてください』横澤丈二×角由紀子が語る編集作業での恐すぎるエピソード 

横澤丈二×角由紀子『見つけてください』

 読めば呪われるホラー小説――そんなおどろおどろしいキャッチコピーで話題になっている一冊が、『見つけてください』(横澤丈二/著、徳間書店/刊)である。執筆を担当したのは、「最恐の心霊スポット」として知られる稽古場、ヨコザワ・プロダクションの代表取締役である横澤丈二氏で、オカルト編集者として知られる角由紀子氏が編集を担当した。

 本書は、横澤氏が初めて手掛けた小説である。これまで身をもって感じてきたという心霊体験と、数奇な運命で出会った幽霊の男の子・てっちゃんについてまとめられている。今回、息がぴったりで数々のイベントを開催している横澤氏、角氏が対談を行った。本書はモキュメンタリーなのか、それとも実話なのか。独占インタビューで明らかにする。

■“対岸の幽霊”ではない恐さの背景

――まずは、『見つけてください』を執筆した動機を教えてください。

横澤:角さんとはこれまで、一緒に本を何冊か作ってきました。1作目は日本一の幽霊物件といわれる、当社の稽古場があるビルにまつわるエピソードをまとめたものです。2作目は、ビルに関連する歴史を残したいと思って企画を考えたのですが、実は、ずっと前から“てっちゃん”という僕の守護霊が預言を言ってきて、よく当たっていたことが気になったのです。

 ふと、死後の世界もてっちゃんならわかるんじゃないかと思いました。そこで、角さんに相談したところ、預言書的な本にしたらいいんじゃないとアイディアをいただき、無事に出版にこぎつけることができました。

 リアリティあふれる心霊物を2冊出した後は、自分の体験したことや、霊体験を多くした場所、様々な要素を繋げてまとめたいと思いました。そのためには、小説のスタイルが適切だなと思ったんです。その思いを角さんに話し、アドバイスをいただきながらまとめたものが、今回の『見つけてください』です。角さんは僕の体験談をよく聞いて知っていますから、書いたものを上手く編集していただきました。

――角さんは、横澤さんの霊体験をどう見ていますか。

角:私はこれまでに様々な方の霊体験をうかがってきましたが、横澤さんの体験談は、他と違う魅力があるんですよ。ヨコザワ・プロダクションの稽古場のビルで起きている心霊現象は、他の日本の心霊スポットでは起きていないことばかりなんです。横澤さんが語るオカルトは本当に幅が広いですし、常識にとらわれない自由な世界観があります。そして、実際にリアルな現象が起こっているのが凄いですね。

横澤:角さんがいなかったら、今回の本はできていなかったし、文体も今のようにはなっていないですね。彼女の文体センスは独特です。本の中で起きていることが“対岸の幽霊”ではなく、海岸から渡ってくるというか(笑)。読んだ方が、嫌な思いを自分のことのように感じられるんです。読者との距離感の詰め方が、角さんらしい。

 とにかく、僕が書いた原稿が角さんの編集を経るとこんなに魅力的になるんだと、感激しました。できあがった原稿を読んで、嫉妬するくらい魅力的に感じましたね。

■霊を引き寄せる魅力がある?

『見つけてください』に編集者として携わった角由紀子氏

――横澤さんと角さんは、何がきっかけで知り合ったのでしょうか。

角:2021年に公開された『怪談新耳袋Gメン ラスト・ツアー』という映画で、ヨコザワ・プロダクションが映画の媒体で始めて取り上げられました。私はコメンテーターとして呼ばれていたのですが、今回の作品では凄いところに行くと聞かされていました。それを聞いて、私は出演料はいらない、その場所に行きたいからとお願いして連れて行ってもらい、横澤さんにお会いしました。

横澤:角さんにお会いしたときは、「なんておきれいな人なんだ…」と思いました(笑)。角さんは勘がよろしくて、人を魅了し、人を引き寄せることが強い人だと感じたんですよ。そして、実際にこの映画で幽霊が出たのです。この人は自分では意識していないと言うけれど、魅力があるから幽霊を呼ぶ人なんだと思って、興味を持ち始めました。

 角さんは美しいうえに不思議な力がある。会うたびに角さんの本性めいたことを知っていく過程で生まれた映画が、『三茶のポルターガイスト』です。

角:初めてヨコザワ・プロダクションに行ったときも、ここが日本一の幽霊物件だと信じていたわけではないんです。制作陣からも、白い手を見たのは横澤さんだけだし、横澤さんだけが手の出現に気づいたというのが怪しい、仕掛けがあるんじゃないか、という話が出ていましたから。

 でも、私はそんな疑いの気持ちを持ちながらも、この場所をもっと調べたいという好奇心が出てきたのです。結果、知れば知るほど、ここは決してやらせではないという確信に至りました。初めは疑っていたのに、今の方が100%信じられる。そんな心霊スポットはほかにないですね。

■『エクソシスト』がきっかけで表現の道へ

『見つけてください』の著者である横澤丈二氏

――横澤さんは、作家だけではなく俳優や音楽など幅広く活躍されています。

横澤:僕はこれまで音楽、舞台、脚本と様々な仕事をしてきました。すべてのきっかけになったのは、小学校4年生の時に見た『エクソシスト』という映画です。僕の出発点ですね。当時はアメリカで上映した映画が1年遅れて日本にやってくる時代でした。小学3年生のとき、私の叔父は英語が堪能で、原書の小説を翻訳して読ませてくれたのです。

 北イラクの場面や悪魔パズズがワシントンDCのジョージタウンの豪邸に入り込む光景など、壮大なスケールの中で、悪魔はどうやって少女に乗り移るのかに興味を持ち、叔父が翻訳したものを陶酔するように3ヶ月くらいかけて読んでいました。そして、小学校4年生の夏に映画を見たのですが、衝撃度は本当に大きかったですね。

 ただ、僕の親父はオカルトをまったく信じない性格でした。親父は高校球児にさせたかったようで、男子校に入学したのですが、クラリネットを吹いている人に出会ったことをきっかけに音楽の道に引きずり込まれました。音楽の道にのめり込んだものの、浮気癖なんでしょうね(笑)。その後、演劇、役者、脚本と、様々なことをやりながら現在に至っています。

■原稿執筆中に奇妙な体験が続々

『見つけてください』の執筆や編集作業中にはさまざまな恐いエピソードが多数あったとふたりは話す

――おふたりが、執筆や編集の過程で何か印象に残った体験はありますか。

角:実は、横澤さんから受け取った原稿を読んだとき、線香の匂いが部屋中に漂ってきたんですよ。その時の勢いのまま、原稿を整理しました。これはガチの出来事です。

横澤:角さんからの深夜のメールに、添付で送られてないのに謎の添付があるということが多々ありました。「この添付ファイルって、何ですか」と返しても、角さんは返信が遅いので、謎が謎を呼ぶというか(笑)。先ほどの線香の話など、角さんは夜中に起こったことを都度、メールに書くのですが、メールに幽霊がくっついてきているんじゃないかと思ったことがあります。

 あと、原稿を書いているときに病院に運ばれ、実際に死にかけたこともあったんです。ある日、てっちゃんが僕に「呪文と言わないでくれ」「呪い文(のろいぶみ)と言ってくれ」と話してきたのです。曰く、「呪い」と書かなければ、本当に呪うことができないということらしいんですね。

 すると、何文字か打っているうちに気持ちが悪くなってきて、嘔吐したり、脈が酷くなってしまって、書斎で倒れてしまいました。救急車で病院に行ったところ、カテーテル手術の話まで出たのですが、先生から聞かされたのは原因が不明なのだそうです。ところが、そんな症状も呪い文のところを書き終えたら、すっかり治っていたんです。

――それは凄まじい体験ですね。なんだか、読者も同じ目に遭ってしまわないか、心配なのですが。

横澤:呪い文について言及した箇所はたった1行なのですが、ここは、霊的なものを感じる方は、読後に大変なことになってしまうかもしれませんね。「読まないように」と書いているのも、実際に僕が死にかけた経験があって書き出したものです。あと、黙読よりも音読の方がまずいし、声に出さないほうがいいと思います。

 その文章を書いているとき、突如、鎌鼬(かまいたち)に遭ったように、Yの字のように腕がスパッと切れたんです。その後、表紙の車いすの写真を撮ったときに、撮影した角さんの旦那さんの腕に傷ができたのです。こんな体験をしながら、できたのが今回の本なのです。

■会議中に車いすが突然動いた

表紙の撮影中にも恐いエピソードが……

――車いすをあしらった表紙もインパクトがあります。

横澤:この本の会議をしているとき、他愛のない雑談をしていたところ、折りたたんで置かれていたはずの車いすが、我々に向かってバーンと移動してきたんですよ。あたかも、ポルターガイストのように、ぶん投げたような。それまで、傍らで黙々とフライドポテトを食べていた編集の鶴田さんが、表情一つ変えずに「この車いすを表紙にしましょう」と言ったのです(笑)。

映画『三茶のポルターガイスト』の上演イベントでも怪奇現象が起こったという

角:体験が起きるのは思い付きではなく、実績があるんです。『三茶のポルターガイスト』『新三茶のポルターガイスト』の時に公開イベントをやったのですが、池袋の『シネマ・ロサ』で、館内に線香のにおいが充満し、後ろ側の壁を叩くような音がしたんです。支配人に聞いても、絶対に後ろに人はいないし、だいたい線香なんて次の上映の予定があるから、炊けるわけがないと言われたんですよ。

 ところが、新宿の『シネマカリテ』でも、線香の匂いがしっかりと漂ってきたのです。そして、大阪では線香の匂いだけではなく、非常灯が消えたんですよ。そんなこと、まずないじゃないですか。そして、廊下から「ギャーッ」という叫び声がしました。隣でどんな恐ろしい映画を上映しているのかなと思ったら、ディズニー映画だった、ということもあります。

横澤:大阪の『ロフトプラスワンウエスト』で出版記念のトークイベントをやったら、角さんの斜め上にあったスピーカーのそばのコンクリート板から、ギシギシと音が鳴りだしました。その後に後ろから音がしたと思ったら、次は天井からドンドンと音がしました。観客の方々からも「音が移動している」と衝撃が走ったのです。我々がイベントをやると、何かが起きるんです。

■見つけてもらいたい存在がこの世にいる

タイトルを『見つけてください』にした理由は、さまざまな霊とのやりとりが関係しているという

――タイトル『見つけてください』には、どんな思いが込められているのでしょうか。

横澤:角さんと僕がいろいろな心霊体験をした街にロケハンで行ったとき、お寺の常夜灯から変な言葉のような、うめき声が聞こえてきました。鶴田さんが言うには、常夜灯は人が集まったり、道しるべになっているものなのだと。

 そんな話を聞いている最中に、僕のもとに現れる霊は、“発見”してと言っているのではないかと、じわじわと感じてきたのです。常夜灯も、火を絶やさずに灯している。それは、見つけてもらいたいという意味なのではないかと。

角:その会話をした後、香水の匂いがしてきました。横澤さんが、「霊は我々に、自分の存在を見つけてほしいのかもしれない」と言っていたのが、印象に残っています。

横澤:この世のものじゃないものたちが、自分たちにアピールしてくれたのではないかと思いました。そう感じたことを、タイトルに込めました。

――角さんは、編集の際にどのような点にこだわりましたか。

角:横澤さんからダイレクトに話を聞いたときって本当に恐いんですよ。その恐さを消さないように、横澤さんが語っているリアリティを読者に感じてもらえるように編集しました。

■リア充の方こそ教訓を得てもらえたら

現在成功している人にこそ『見つけてください』を読んでもらいたいという

――読者からは「心をえぐられるように共感した」「自分自身と重なった」といった声もあります。

横澤:大変うれしく感じています。そして、ぜひとも、人生をあきらめかけた人にこそこの本を読んでほしいと思っています。真剣に読んでくだされば目の前に霊たちがやってきますが、彼らは弱者に光を当てると思うのです。何を隠そう、僕もそんな一人。『エクソシスト』が僕に光を与えてくれて、それを機にいじめもなくなり、夢もできたのです。

 そして、還暦を迎えても、不思議な世界で自己主張しながら生きています。霊の社会は決して恐いものだけではなく、閉ざしていた気持ちに光を当ててくれて、前向きな気持ちにしてくれるのだ、ということを伝えたいです。

 あと、リア充な方は一回、こういう本を読んで、一度は痛い目に遭っていただきたい(笑)。リア充のままだと、転んだ時に特に痛いですから。成功してビルを買ったけれど、何億も借金を抱えてしまったという方もいます。リア充の方こそ、ちょっと転んでみて教訓を得てくれたらと思います。

角:100%同意です(笑)。

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