『機動戦士ガンダム サンダーボルト』はどこが“異例‘’だったのか? 最終回を迎えたスピンオフを識者が分析

大田垣康男によるガンダムシリーズのスピンオフコミック『機動戦士ガンダム サンダーボルト』が、先日最終回を迎えた。2012年から足掛け13年、外伝やアニメ化も挟みつつ、ついに最後まで走り切ったということになる。この作品は、ガンダムのスピンオフコミックとしては異例づくめの作品だった。
【写真】『サンダーボルト』10周年記念グッズの複製原稿セット
■ガンダムブームで数々のスピンオフが登場
『機動戦士ガンダム』には、アニメ放送後に出版物によって設定面が補完・補強された歴史がある。1980年1月26日に『機動戦士ガンダム』の本放送が終了したのち、1980年2月にバンダイ模型が製品化権獲得を発表。同年7月にベストメカコレクションシリーズNo.4として、「RX-78ガンダム」が発売される。翌年1981年3月には劇場版『機動戦士ガンダム』の第一作が公開され、ガンダムブームは社会現象レベルの出来事になっていく。インターネットのない当時、この動きを受けて数々の関連書籍が発表されていった。
その中でも設定面の補強・創作に関して大きな役割を果たしたのが、1981年の夏に発売された『宇宙翔ける戦士達 GUNDAM CENTURY』である。この本では現代に続く「宇宙世紀もの」のガンダムの設定が外部スタッフによって創作され、ガンダムシリーズの設定面での基礎となった。さらに80年代から90年代の初頭に至るまで、ガンダム関連の出版物は大量に出版され、その中には多数のコミック作品も含まれている。これらのコミックの多くはバンダイ出版課によって発行された『B-CLUB』や『サイバーコミックス』『MS SAGA』といった出版物に掲載されており、バンダイ出版課が解散したのちにこの流れは『月刊コミック電撃大王』といったメディアワークスの出版物に引き継がれた。さらに2001年からは、グループ会社としてメディアワークスとも深い繋がりのある角川書店から『ガンダムエース』が刊行され、ガンダムのスピンオフコミックの一大発信地となっている。
■サンダーボルトはなぜ異色だったか?

さらに『サンダーボルト』が異色だった点として、その作品の長さがある。通常、ガンダムのスピンオフコミックは、長大な宇宙世紀の歴史の中からアニメでは描かれなかった裏面を題材にしたり、メカ描写・戦闘描写をよりマニアックな方向に振った作品が多い。このようなアニメのエピソードの間を縫って補完するという方向性ゆえ、必然的に内容が「アニメで描かれた大事件と大事件の間を埋める」ということになりがちで、それゆえに漫画としての話数はそれほど大ボリュームにはなりにくい。という事情から、ガンダムのスピンオフは(例外は多少あれど)一話完結の短編から、長くても7〜8巻程度に収まることが多いのだ。
しかし『サンダーボルト』は長い。連載期間は前述のように足掛け13年。単行本は28巻で完結予定と、スピンオフコミックとしては異例のボリュームである。なんせあの『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』ですら、連載期間10年、単行本は全24巻というボリュームなのだ。この長さになった理由として、『サンダーボルト』が宇宙世紀の"正史"にとらわれず、大田垣独自の展開を辿った点がある。
『サンダーボルト』序盤は一年戦争末期から始まり、それぞれに重い事情を抱えた連邦とジオンのエースパイロットによる死闘が描かれた。しかしその後、本作は宇宙世紀の年表から離れた独自の展開を辿る。一年戦争後の連邦の支配力低下を原因として生まれた「南洋同盟」と連邦軍との戦いが始まり、そこに一年戦争期からの各キャラクターの因縁が重なることで、物語は複雑化。さらに「宗教」というこれまでガンダムシリーズではさほど描かれてこなかった要素(『機動戦士Vガンダム』などに盛り込まれてはいた)を前面に押し出し、『サンダーボルト』はガンダムのスピンオフでありながら大田垣独自のSFコミックとしても読める、多層的で重たい作品となった。
■SFコミック作家・大田垣康男という存在
基本的にガンダムのスピンオフコミックはこれまでに組み立てられた作品内の枠組みに収まっている作品が多く、またメカや設定面に関して独自性を打ち出している作品の中にはミリタリー色の強さの割にストーリーに起伏がなく、端的に漫画として微妙なものも多かった。メカデザインに関して濃密でマニアックな考証の存在を感じさせつつ、ストーリーに関しても濃厚でヘビーな内容を備えた『サンダーボルト』は、ガンダムのスピンオフコミックとしては例外中の例外と言っていい。SFコミック作家としての大田垣のパワーがあればこそ、この異例づくめの作品が成立したのである。

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