『アオアシ』作者・小林有吾が初挑戦のスポーツ漫画で名作を描けたワケ 最終巻で判明した驚嘆の「取材力」

小林有吾の『アオアシ』の完結までが描かれた第40巻が8月29日に発売された。同作は2015年1月から「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)にて10年間連載された人気サッカー漫画。愛媛から上京した中学3年生の青井葦人が、Jリーグのユースクラブ「東京シティ・エスペリオンFC」に加入し、仲間や指導者との関わりを通じて成長していく物語だ。Jユースというこれまで漫画では扱われてこなかった“プロを目指す高校生”のリアルな葛藤や人間模様を鮮烈に映し出し、2020年に「第65回 小学館漫画賞」一般部門を受賞。2022年にはテレビアニメ化も果たしている。累計発行部数は2400万部を突破し、サッカー漫画の新たな金字塔を打ち立てた。
その完結となる40巻では、スペインの名門・バルセロナユースとの激闘がアディショナルタイムまでもつれ込み、エスペリオンが1-3から追いついて死闘を繰り広げるクライマックスが描かれる。最後はアシトに異変が訪れるという展開で、最後の最後まで読者を釘付けにした。
そんな『アオアシ』が読者を惹きつけた理由のひとつが、徹底したリアリティだ。作品には実在の選手や指導者を想起させる人物が登場し、サッカーファンにとっては現実の競技世界と地続きの感覚を覚える仕掛けが随所に施されていた。
その背景には作者・小林有吾の膨大な取材活動が存在する。実際、40巻の巻末あとがきでは、小林にとって『アオアシ』が初めてのスポーツ漫画だったこと、連載を引き受けるにあたり、大きな葛藤があったことが明かされている。サッカー未経験の立場から、プロ選手や指導者に自らアポイントを取り、細部にこだわった聞き取りを重ねたことが、試合シーンやキャラクター描写に確かな説得力を与えたのだ。
その取材姿勢の象徴が、40巻の巻末に掲載された「Special Thanks」である。そこにはなんと45名に及ぶサッカー関係者の名前がズラリ。内田篤人、伊東純也、イニエスタ、古橋亨梧、オナイウ阿道など、新旧日本代表や世界的スターの名前が連なり、いかに幅広く濃密な取材が行われてきたかが一目で分かる。また「Super Special Thanks」として、中村憲剛と愛媛FCの名前が特別に大きな文字で掲載されたことも話題を呼び、中村は自身のXで「小林先生、連載お疲れ様でした。『アオアシ』という素晴らしい作品に携わらせていただき感謝しております」と投稿し、取材を通して感じた作者の熱意を称えている。
小林先生、連載お疲れ様でした。
「アオアシ」という素晴らしい作品に携わらせていただき感謝しております。
取材で初めてお話しした時から最後まで、凄まじかった先生のサッカーへの想いと熱量。取材の日が待ち遠しかったですし、お役に立てて嬉しかったです。
引き続き応援しております。 https://t.co/I7zrmflQNF
— 中村憲剛 (@kengo19801031) August 29, 2025
ネット上では、あとがきを読んだ読者からの反響が続出。「現役選手や指導者にめちゃめちゃ取材しているから、リアルタイムで読むことでいまのサッカー界を感じられる作品だった」「スポーツ漫画初挑戦で10年連載をやり切ったことに心から驚いた」「どれだけの取材を行えば、これだけリアリティのある漫画が描けるのだろう」と驚嘆するコメントが飛び交っている。
また、『アオアシ』では親子関係や指導者の姿勢、夢を追う女性キャラクターといった人間模様も深く掘り下げており、サッカーに詳しくない層も楽しめる構造になっていた。サッカーだけでなく、こうした要素を作品に落とし込んだことも小林の漫画家としての手腕が光った点だろう。
今後についても期待が高まっている。先日発売の「ビッグコミックスピリッツ」誌上では、2026年春に新連載が開始予定であることが告知された。小林は現在「月刊少年マガジン」にて『フェルマーの料理』を連載中で、数学×料理という過去に例がない切り口が読者を驚かせ、2023年にドラマ化、2025年にはアニメ化もされたている。次回作でどのような題材が選ばれたのか楽しみだ。






















