又吉直樹 × ヨシタケシンスケ、本を「書く」か「読む」のどちらかを選ぶとしたら? 二人の共通した答えとは

「書く」「読む」、どちらか一つしかできないなら?
――では最後に、 お二人にとって「本を書く」ことと「本を読む」こととは?
ヨシタケ:この間、ある研究者の方のインタビューで面白いなと思ったのが、その方はご自身でも著書を出していて、たくさん本を読む方なんですけど「僕はこの先、本を読むことと書くことと、どっちかだけにしろと言われたら、読む方を選びます」とお答えになったんですよ。「それくらい新しい知識を入れることが僕にとっては生きる喜びで、あくまでも書くのはその副産物なんです」といったことを仰っていて、それを見た時に「僕は書く方だな」と思ったんです。
そもそも僕は、そんなにたくさんの本を読んでいないんですよ。だからこそ、自分が書けるなんて思っていなかったんですけど、いざ自分が書く側になった時に「読む」というインプットをするよりも「書く」というアウトプットの方が生きることが楽になるというか、今の自分にとっては表現や創作の作業が救いになっているなと思いました。もちろんインプットするのも好きですが、体力がガクッと落ちてインプットする力がなくなってきた時に、どんなアウトプットができるのか。本を読まない人間が書く本って面白いのかどうか、ということにすごく興味があるんです。そこに救いが残っている僕は幸せだなと思っています。
――又吉さんなら、「書く」と「読む」どちらを取りますか?
又吉:自分の書いたやつは読んでいいですよね? だったら僕も「書く」方を選びます。お笑いでも同じで、見るのもいいけど「どっちかしかやったらあかん」って言われたら、多分「やる」方を取ります。サッカーも、今やったら完全に見る方と言いますけど、まだプレーヤーとしてやれる状況だったら、やっぱりやる方を選びます。しんどいのも含めて面白いですからね。
たまに「作品を書いて世に出すことの意味って何ですか?」とか「どんな思いがあって本を書いてらっしゃるんですか?」と聞かれるんですけど、そういう時はいろいろ大義名分をこしらえて、例えば「仕事やから」とか「今回はこういうことについて書いてみたい」と答えているんですが、実際に書いている時はそういうのを全部忘れていて「人に楽しんでもらいたい」さえも忘れてしまっていることが多いんです。もう必死というか夢中というか、書き始めたらその書いているものと自分だけっていう感じなんです。
その感覚と似ているなと思うのは、子供の頃、サッカーの練習の一環として、夜一人で7㎞くらい走っていたんです。でも、誰もそんなことやってないし、別にそんなことしなくていいんですよ。人には「サッカーがうまくなりたいから」って言っているけど、走りたいだけ走っている瞬間のその心地よさが自分に必要だったんですよね。だから何か理由があるわけでも後付けがあるわけでもなく「ただ走りたい」。小説も「ただ書きたい」。そう思ったら、もう筆が止まらないんです。
▪️著書プロフィール
◎又吉直樹(またよし・なおき)
1980年大阪府寝屋川市生まれ。吉本興業所属。2003年にお笑いコンビ「ピース」を結成。2015年に本格的な小説デビュー作『火花』で第153回芥川賞を受賞。同作は累計発行部数300万部以上のベストセラー。2017年には初の恋愛小説となる『劇場』を発表。2022年4月には初めての新聞連載作『人間』に1万字を超える加筆を加え、文庫化。2023年3月、10年ぶりのエッセイ集となる『月と散文』を発表。他の著書に『東京百景』『第2図書係補佐』など。YouTubeチャンネル【渦】、オフィシャルコミュニティ【月と散文】も話題。
◎ヨシタケシンスケ(よしたけ・しんすけ)
1973年神奈川県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。2013年『りんごかもしれない』で絵本作家デビュー。絵本作品『りゆうがあります』『もう ぬげない』、イラスト集『デリカシー体操』、エッセイ『思わず考えちゃう』など多数。MOE絵本屋さん大賞、産経児童出版文化賞美術賞、ニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞、ボローニャ・ラガッツィ賞特別賞などを受賞し、海外でも様々な国で翻訳出版されている。近著は『そういうゲーム』『まてないの』。2児の父。
▪️書誌情報
タイトル:『本でした』
著者:又吉直樹/ヨシタケシンスケ
予価:1,760円(10%税込)
発売:2025年8月5日
書誌ページ:https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8008500.html
























