『ゼロトレ』石村友見に聞く、NYで1000人を育てたヨガ講座の極意「目的は心と体を整えて健やかに生活すること」

『ゼロトレ』石村友見に聞く、ヨガの極意
石村友見『ゼロトレ』(サンマーク出版)

 シリーズ125万部突破の『ゼロトレ』(サンマーク出版)考案者・石村友見さんが主催するヨガ講座が、今年9月からついに東京で開講される。これまでニューヨークでしか受講できなかった本講座は、過去15年間(1~24期)で世界中から受講生が集い、1000人以上が全米ヨガ協会の認証資格「RYT200」を取得してきた。

 本講座にはヨガインストラクターを目指す人のみならず、「体形を整えたい」「自分の体に起こっている不調の原因が知りたい」「年齢を重ねていく上で心や体をコントロールしていく術がほしい」という思いから受講する人も多いそう。実際、70代からチャレンジされた方もいらっしゃるほど、何歳からでもスタートできるのが特徴だ。

 その窓口の広さは、体と心を本来の位置(ゼロポジション)に戻すことで体形も体調も整えていくゼロトレの考えとも連動している。劇団四季の『ライオンキング』、ブロードウェイ・ミュージカルの『ミス・サイゴン』への出演など輝かしいキャリアを誇りながらも、一時期は心身ともにボロボロになって動けなくなった経験を持つ石村さん。そんな彼女だからこそ受講生たちの人生をも丸ごと受け入れ、そして成長を見届けてくれる温かな講座が人気の秘密。

 今回は石村さんに改めてヨガを源流とした『ゼロトレ』の誕生秘話について、そして本講座に込められた思い、さらには石村さんが目指す今後について聞いた。

大切なのは、本来(ゼロ)の自分に戻すこと

――『ゼロトレ』を発売してから7年。現在では7カ国で翻訳もされて、本当に多くの方が手にとっていらっしゃいますね。

石村友見(以下、石村):ありがたいことに海外からもたくさんの反響をいただいています。なぜこれほど世界に広まっていったのかなと考えたのですが、「そうか、骨の作りはみんな一緒なんだ」と。もちろん人種によって脂肪の付き方やお肉の固さなどに違いはありますし、それぞれの環境で受けるストレスの種類も異なるのだと思いますが、やっぱり骨格の部分には共通しているものがあるんだなと実感しました。

――私も『ゼロトレ』を読ませていただき、「不調や体形の崩れは体の“ちぢみ”からくる」という話は目からウロコでした。

石村:そうなんです。仕事や家事、育児など、日々の動きから筋肉や関節がちぢんでしまって、硬直したり引っ張られたりしていくんです。すると、あちこちに不調が出て、基礎代謝も落ちていく……。なので、そのちぢんだ体をゆるめて、骨を本来の位置に戻してあげることで、誰もが健康を取り戻せるというのが『ゼロトレ』のメソッドです。整えることができれば自然と本来あるべきところに筋肉がつき、代謝が上がって体形も美しくなっていく。だから、本当に小さなお子さんからご年配の方まで、誰でもできるトレーニングであることが大事だと思って作りました。

――さっそく私もゼロトレにトライしてみたのですが、本当に寝ながらできるんですね。しかも、ちぢんでいた体が伸びる感覚が本当に気持ちが良い。「トレーニング」というイメージとは真逆な印象でした。

石村:そこもすごく大切にしているところです。「運動」っていうとどうしても気合を入れてプラス、プラス、プラス……というイメージになってしまいますが、ゼロトレはむしろゼロに戻していくもの。なので、方向性が違うんですよね。そして脳内で出るホルモンもまさしく真逆なんです。激しい運動をした後はアドレナリンが出てスカッとしますが、そのままビールを飲みたい気分になりませんか(笑)?

――汗を流した分、美味しく感じてしまうやつですね!

石村:そうそう! それも楽しめているのなら全く問題ないのですが、せっかくスタイルアップをしようとして運動しているのだとしたら、ちょっと困った欲求ですよね。対して、ゼロトレはセロトニンというリラックスホルモンが出ます。終わった後もスッキリしますが、ビールよりも「何か体に良いものを食べてあげようかな」というゆったりとした気持ちになるはずです。自然と喋り方もゆっくりになって、イライラしていた気持ちも落ち着いて、本来の穏やかな自分に戻れる。だからみなさんよく仰るんですよ、「ゼロトレは疲れているときこそやりたくなる」って!

ヨガが解き放ってくれた、自分で自分を責める苦しみ

――本にも書かれていましたが、ゼロトレが生まれた背景には石村先生ご自身がヨガスタジオで体験した、体の重さが一瞬で消える「かかと重心」の衝撃があったそうですね。

石村:そのころの私は本当にボロボロで。ミュージカル女優としてステージで歌えば音を外し、舞台裏で先輩方に土下座して謝る日々でした。本当は土下座なんてしなくても良かったんですけど、自分が一番自分を許せなかったんですよね。ずっと「お前はダメなやつだ」と自分を責める自分が追いかけてくる。失敗したくないと思うほどに体も心もちぢこまって、また音を外して、また謝って……そんなことをしているうちに仮面鬱病と診断されました。

 実は、そのとき診てくださった先生がすごくいい先生だったんです。すぐに薬を出すのではなく「まずは体を動かしてください。そして太陽を浴びなさい」と、体から心を整える方法があるんだと気づかせてくれました。それまで心は心の問題で、体と心が繋がっているとも思ってもいなかったんですよ。

 そんなときマンハッタンのヨガスタジオで「つま先を上げて、かかと重心に立ちます」と言われてやってみたら、「こんなに軽い体は久しぶり!」と衝撃を受けました。練習やプレッシャーでいつも痛みやだるさを感じていた心も体もフワッと羽が生えたように軽やかで、もう「なんだこりゃ!?」でしたね(笑)。そのときの感動を多くの人にも味わってほしいと思い、ヨガの技術を追求して生まれたのがゼロトレです。

――自分で自分を責めるというのは、誰もが経験する苦しみですね。

石村:そうですね。特にSNSが始まってから、他人と比較して自分を責める方がグッと増えたように感じます。でも、どんなに幸せそうに見える人でも本当のところはわからない。人知れずストレスを抱えていたり、見えない痛みに悩んでいるかもしれない。本来、みんな生きるのって苦しいんです。その苦しみからどうやったら解放されるかを考えて約5000年前に生まれたのがヨガですから。

――そんなに前から人間は苦しみと戦っていたんですね。

石村:もともとヨガは呼吸を整え、目をつぶって瞑想するところから始まりました。世界では医療の処方箋として使われることも珍しくありません。日本ではヨガというと「キラキラした女性たちが美しいポーズを取るもの」みたいなイメージがあるかもしれませんが、それくらい本質的に人間の心と体を健康に導くものとして認められているものなんです。

 ただ、瞑想を習得するのはとても難しいんですよね。私も最初は苦戦しましたから(笑)。なので、まずは体を使って“てこの原理”のようにその反動を利用して、心をしずめていきましょうというのが、ヨガでポーズをとる理由なんですよ。

――そうだったんですか。あのいかにも体の柔らかさがわかるようなポーズができないと「ヨガをしている」とは言えないと思っていました。

石村:だって、みなさん(ひょいと足を持ち上げて)こんなポーズをとりながら通勤なんてしないでしょう(笑)? それよりも体のだるさを感じずに立てることだったり、軽やかに歩けたりすることのほうが大切じゃないですか。なので私の講座では「ヨガはあくまでも手段であって、目的は心と体を整えて健やかに生活すること」だとお伝えしています。もちろんカッコいいポーズがとれるようになりたいという気持ちも、とても素晴らしいですけどね!

――なるほど、ゼロトレが呼吸を整えるところからスタートするのも、そういうヨガの成り立ちと自然に共鳴していたわけですね。

石村:そうですね。本当に呼吸っていうのは大切なものなんです。以前、生徒さんで過去のトラウマもあり、交通事故にもあって離婚もされて……と、すごくストレスフルな状態で私のところにいらっしゃった方がいました。レッスン中、動きをサポートするために体に触れようとしたら「触らないで!」ってなっちゃったんですよね。それくらい心と体が閉ざされているのだと感じました。そのときも、まずは呼吸で内側から緊張を解すようにしたんです。すると、だんだんと穏やかな表情になって。「先生、触ってもらっても大丈夫です。いや、むしろ触ってください(笑)」っていうくらいに変わられたんですよ。

 心って無理矢理こじ開けようとすると問題が生じますけど、呼吸からアプローチするとこんなに短時間で心を解き放つことができるんだと経験してから、ますます呼吸の大切さが身にしみました。胃とか心臓とか他の臓器はなかなか自分で意識して動きを変えることはできないけれど、呼吸は意識的に変えられる。要するに、呼吸は技術なんです。それがわかっていれば、逆に呼吸から自分の感情をコントロールすることができるということ。それがヨガの世界では数千年も前からわかっていたんですから、すごいですよね。

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