浅野忠信の表現には、無限の広がりがあるーー大規模個展「PLAY WITH PAIN(T)」ISHIYA評


2025年4月2日から6日まで、新宿伊勢丹本館6階の催物場で開催されている、俳優・浅野忠信のアート個展「TADANOBU ASANO EXHIBITION PLAY WITH PAIN(T)」へ、行ってきた。
浅野君は、自身のバンド「SODA!」やそれまで活動していたバンドで、様々なハードコア・パンク・バンドとの共演もあり、ライブへ遊びに来てくれることも多い。
会えば気さくに話してくれる上に、筆者の友人宅にいきなり現れたり、テレビ番組出演の際に友人のハードコア・パンク・バンドのTシャツを着ていたりなど、筆者の界隈とも馴染み深い存在だ。実際、この個展に行った日には本人も来ていて、訪れた人々と気さくに話しており、軽く挨拶をすると、すぐに来てくれたりなど、大俳優とは思えない気さくさだった。
日本屈指のパンクイベント「KUPPUNK」へ、毎回4コマ漫画を提供している他にも、筆者の著作「ISHIYA私観」シリーズの表紙を描いてくれ、自身のSNSでは膨大な量のアート作品を発表し続けている。

浅野忠信といえば、言わずと知れた日本を代表する世界的俳優であり、その演技力の素晴らしさは誰もが知るところだ。様々な役柄の演技では、驚くほど個性を変化させ、印象深い演技が多いのが特徴である。
貪欲に様々な役柄を表現し、子役時代から続く俳優業の経験は半端ではない。その経験によって、深みや味のある演技が培われてきたと思うのだが、俳優・浅野忠信の「凄さ」は、アート作品にも現れていた。
絵を頻繁に描き始めた当初、SNSで浅野君の作品をよく見ていた。個性のあるタッチだが、上手いという絵ではない。しかし何か妙に味のある、気になる絵ばかりを描いていた。毎日のように膨大な絵を描き続けている様がよくわかり、絵もどんどん進化していく。描くものも人物や建物、シーンの描写などが多かったように思うが、そのうち風景や花、抽象的な表現なども描き出す。


色使いやタッチ、鉛筆やペン、絵の具などの他にも、段ボールや紙袋にも描きはじめ、もう手当たり次第使えるものを使い出し、表現の幅が無限の広がりを見せていった。
繊細なタッチからイラスト的なもの、絵の具の盛り上がりによる立体感や、キャンバスの大きさによる違いによって、見るものの感情へのアプローチも変化しているように思える。

段ボールのようなキャンバスやメモ帳のように小さなもの、大漁旗の作品やクッションのようなアート作品、紙袋に描いて作った顔などは、どこかの部族のアートにも通じ、抽象的な表現では、やはりというかパンクスであるが故に理解できる退廃的表現など、あまりの引き出しの多さと表現力の豊かさに、圧倒的なアーティストとしての本質が見えた。

今回の個展で、その無尽蔵な表現への姿勢は、俳優業という自身の生業への姿勢を彷彿させ、各作品で表れている個性は、まるで浅野忠信の演技を見ている感覚だった。この表現への貪欲な姿勢が、浅野忠信の魅力であり、誰もが認める唯一無二な存在を創り出しているのだろう。

ものごとや状況、人物や風景など、目の前にあるものを敏感に感じる感覚と、様々な視点で見る柔軟さ、その感受性が俳優業でもアート作品でも、人間「浅野忠信」を形成しているのだと感じられる、素晴らしい個展だった。
以前にも渋谷PARCOで開催された個展を観に行ったが、定期的に浅野忠信のアートには触れていたい。実際に生で見ると、アートの良さがよくわかる。
今回の個展に入場してすぐ、こんな浅野君の言葉が書かれていた。浅野忠信という人間の、豊かな感性が非常によく表れていると感じたので、最後に記しておく。
俳優業という表現も、浅野忠信のアート作品のひとつなのだろう。
昔、子供たちに向け、絵を描くワークショップをやったことがある。
「なんでもいいから絵を描いてみて」と、小さいノートを配った。
それぞれが一生懸命、花や木や家や人を描く中、ただひたすら、ノートを真っ赤に塗り続ける子がいた。
やる気がないのかな、何も思いつかないのかな。
めくっても、めくっても、赤く塗られただけのページが続く。
余計なことは言うまいと思いつつ、「君は、何を描いているの?」と聞いてみた。
まっすぐに僕のほうをみて、その子は言った。
「秋!」と。
何も言えなかった。
変な大人の感性で、何も描いてないと思った自分を恥じた。
赤く塗られた1冊に、その子は「秋」を懸命に描いていた。
そこには、秋という絵が確かにあった。
なぜこんなにも心が動くのだろう。
絵とは、アートとは、そういうものかもしれない。
パッと火がつくような衝撃でも、凪のような穏やかさでも絵との出会いは、感情との出会いでもある。
楽しかったり、うれしかったり、ドキッとしたり、大きく揺さぶられたり、何か発見があったり、ほっとしたり、泣きたくなったり、元気が出たり。
人生はままならないことが多いけれど、僕は絵を描き、絵に触れ、絵と遊ぶことで生きていた。
=play with pain(t)一
この場では、自由に、心のおもむくままに、感じてください。
浅野忠が描いた絵を、ただ、楽しんでください。
素敵な出会いがあるとうれしいです浅野忠信
イベント名:TADANOBU ASANO EXHIBITION PLAY WITH PAIN(T)
会期:2025年4月2日(水)~4月6日(日)
各日午前10時~午後8時まで
4月2日(水)午後3時終了/ 最終日4月6日(日)午後6時終了
会場:伊勢丹新宿店 本館6階 催物場
入場料:無料
ウェブサイト:2025年3月19日(水)午前10時より公開 https://www.mistore.jp/shopping/event/shinjuku_e/tadanobuasanoexhibition_10






















