SNS・生成AIが人々を騙す世界……下村敦史、話題の新刊『口外禁止』社会問題×圧巻トリックをミステリ書評家が聞く

■SNSが引き起こす悲劇を描きたい
——下村さんの小説にはこれまでにもテクノロジーへの警句を込めた作品があります。『口外禁止』でもSNSによって引き起こされる問題点が描かれていますね。
下村:SNSの問題はもはや社会全体にとっての永遠の課題であり、終わらないテーマになっていますよね。インターネットの黎明期において「モニターの向こう側には生身の人間がいることを忘れてはいけない」という言説がすでにありました。近年ではSNSの誹謗中傷によって生じる悲劇が数多くあって加速度的に悪化している印象です。そうやって日々新しい問題が起こっている以上、描かないわけにはいかない、という気持ちが強いんです。
——SNSの問題を小説で描くことは下村さんにとってもはや宿命のようですね。
下村:そうかもしれません。ただしSNSの問題を誇張したり、あるいはわざと過激に小説で描こうとは思っていないんです。むしろ僕はその逆で、現実よりもかなりソフトにした上で物語の中に盛り込むようにしています。というのも現実のSNS上で繰り広げられている暴言をそのまま描いてしまうと読者の気持ちが本当に悪くなってしまうかもしれない。嫌な現実を散々見ている読者に対して、追い打ちをかけることはしたくないんです。それでもSNS社会の深刻な側面をえぐっている、という評価をいただくと、逆に現実の問題がどれだけ酷いことになっているのかを示しているように思います。
■下村敦史が描く悪役の特徴
――SNSもそうですが、本作では私人逮捕といった社会問題にも触れています。
下村:これまでの作品でも核廃棄物や外国人差別問題など、様々な社会問題を扱ってきました。日々、生活している中で「これは今の時代を象徴する出来事だな」と関心を持ったものを小説の中に取り込んでいます。ただ、どのような問題を扱うにしても、根っからの悪というのを描くことは出来ないんですね。たとえ悪党を描いたとしても、悪党なりの筋を通すところは必ず書くようにしている。徹底的に嫌な人間、不快感を与えるだけの人間を書くのは昔から苦手です。
――善人か悪人か、どちらか一方に振り切っているように描くのではなく、人間の多面性を描きたいとの思いが下村さんの中にあるからではないでしょうか?
下村:そうかもしれません。だからこそSNSで繰り広げられる過激な言説などを観察しようと思うのかもしれないですね。極端な論を振りかざす人たちは周りにいないし、自分でもああいう考え方に行き着くことは無いので。自分にはないものだからこそ、登場人物の多面的な姿を描く際の参考にしている気がします。
——最後に今後の執筆予定を教えていただけますか?
下村:実業之日本社での新作については今後も『ヴィクトリアン・ホテル』や『口外禁止』のような、ストレートなミステリとは少し違う挑戦的な小説を書いてみたいです。まずは『口外禁止』が多くの人に届いてくれたら嬉しいです。





















