蔦屋重三郎 初めてのベストセラー『一見千本』がヒットした理由は? 専門家に聞く、江戸時代の美的価値観

■江戸の文化は“粋”に通じる

  櫻庭さんは、江戸の文化の根底に流れるのは“粋”であると話す。『べらぼう』のなかでも「粋だねェ」という台詞があった。既に述べたように、人々は粋なことをしたいがために、本を買って教養を身につけようとした。江戸で出版文化が開花したのも、粋を楽しむ文化があったからこそといえそうだ。櫻庭さんがこう話す。

 「江戸っ子にとって“粋”の勝負の場と言えるのが吉原ということになるのですが、『べらぼう』で『お前さん、人間みたいなこと言ってるよ、忘八のくせにサ』と駿河屋に言った扇屋は、十八大通の一人で、粋も張りも芸能も教養もあった大通人です。遊女たちも同じように教養を持たせているため皆一流でした。『あふぎやへ行くので唐詩せんならい』という川柳があるように、吉原に行って知的な会話のひとつもできないと、“野暮”だったということがわかります」

  櫻庭さんによると、歌舞伎や戯作、洒落本は、人々が吉原、深川、千住などで遊んだ時の会話をまとめたものが多いそうだ。なかには、粋でありたいと思って行動し、かえって野暮なことをしてしまう顛末が書かれた本もあるという。かっこつけたいと思っても、なかなかうまくいかない。現代人にも通じる失敗を、江戸の人たちもやらかしていたと思うと、江戸の文化がグッと身近に感じられるのではないだろうか。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
総合:毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
BS:毎週日曜18:00〜放送
BSP4K:毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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