『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』ファン必見! 横山だいすけおにいさんに聞く、親子で楽しみたい『妖怪の子預かります』の魅力

横山だいすけが語る『妖怪の子預かります』

今の時代に刺さる「つらいときは逃げてもいい」のメッセージ

――もともと大人向けだったということもあり、大人が読んでいてグッとくる部分もありますよね。

だいすけおにいさん:言葉の美しさであったり、ストーリーの複雑さ、先がどんどん知りたくなる展開とか、大人として楽しめる部分ももちろんありつつ、そのなかに「つらいときは逃げたっていいんだ」とか「逃げて逃げて、またどこかで立てなおせばいい」っていうセリフが刺さりましたね。我々大人も、どうしても頑張りすぎちゃう世の中になっているからこそ。ちょっと非現実的な空気感においてそのメッセージがスッと入ってくるというか。

 逃げたくても逃げられない、声を上げたくても上げられないっていう方ってたくさんいると思うんですよ。僕がうたのおにいさんとして歌を届けてきた子どもたちが今、大きくなって小学生とか中学生になっているので、そういう子たちに会いに学校に行く機会もあるんです。そこで先生たちからも今を生きていく難しさっていうのを聞くことも多いと感じています。

 そのとき、どうしても集団に馴染めない子が「ここなら大丈夫だよ」「安心していいよ」って思える場所を作っていくことも大事だなって思ったんですよね。僕が子どものころもそういう子たちがいなかったわけではないんですが、今は可視化されてきたのかもしれません。だから、そういう言葉を見るだけで縮こまってた方がホッとなれるというか、「それでもいいんだよな」って思えてもらえたらいいなって。

――「もし人間界に居づらかったらこっちにおいでなさい」なんてセリフもありました。

だいすけおにいさん:それって現実社会で苦しいときに、ちょっと本の世界に飛び込むことにも近いのかなとも思いました。物語だからこそ癒やされる部分みたいなのってある気がしていて。読んでいる間、違う自分になれるとか、違う世界を覗くことができるっていうのは、ちょっとしたことなのかもしれないですけど、気持ち的にはすごく変わると思うんです。さっきまで疲れて嫌だった気持ちが、本をたった数十分読んだだけで、胸がスッキリしてるみたいな。すごくいい気分転換になるんじゃないかな、なんて思います。

――本から想像したものを現実に持ってきて世界を楽しくできるのも、また楽しみ方の一つですよね。

だいすけおにいさん:そうなんですよね。僕も、ちっちゃいころは、「ぬりかべ」とか「いったんもめん」とか「猫娘」とか、いてもおかしくないなって思っていましたからね。コンクリートの大きな壁を見るたびに、ニューッとぬりかべが出てくるんじゃないかなって。その道を暗くなった時間に通るの、ドキドキしてたな〜(笑)。そういうの、今思うとめちゃくちゃ楽しい思い出なんですよ。ちょっと怖いほうが印象に残っているというのもあって。「どうやって逃げよう、戦う? 言葉通じるかな?」っていろいろ作戦を考えてました。

――当時は真剣だったんだと思いますが、可愛らしいお話です。

だいすけおにいさん:はなから「そんなのいないよ」って否定するよりも、「もしかしたらいるんじゃない?」ってワクワクできる余白みたいなものがあったほうがいいと思うんです。僕はいまだにテレビとかで「カッパのミイラが!」なんて話題が出ると、「やっぱり!? 信じててよかったー」なんて楽しんでますから(笑)。

――信じて楽しんだ者勝ちですね。

だいすけおにいさん:そうそう! そしたら、現実で何か面倒な人に遭遇したとき、心の中で「もしかして妖怪なのかも?」なんて思えたら、ちょっとだけ相手のことを愛らしく感じられて、こっちが冷静になれるような気もするんですよ。もちろん、そんなこと口に出しちゃダメですけどね!

子どもとのコミュニケーションツールとしての読書体験を!

――4歳の娘さんと過ごす中で読書について何か感じられることはありますか?

だいすけおにいさん:親になってから、日々の仕事と家事と育児とで、なかなか活字に触れられなくなってしまったなって思っていました。あるとしたら、夜に絵本を読んであげるときくらい。でも、そのわずかなタイミングでも、やっぱり本って面白いなって思うんです。

 普段の会話で口語的な言葉はよく使いますけど、文章としての美しい言葉とか日本語の表現の豊かさっていうのは、やっぱり本を読んだときに触れないと入ってこないじゃないですか。「なるほど、こういう表現もあるんだ」ってなるときもあれば、「どういう意味だろうね?」っていっしょに調べることになったり。そうやって親子で世界を広げていくことも読書にはありますよね。

――本を介してコミュニケーションが生まれるわけですね。

だいすけおにいさん:そうです。ときどき「どうやって子どもとコミュニケーションをとったらいいかわからなくなるときがあります」っていう相談を受けるときがあるんですけど、それこそこういう本をいっしょに読んだらいいと思うんです。

 それは、子どもが読んだ部分をこっそり寝たあとに読み進めるみたいな形でもいいし、もちろんいっしょにページをめくっていく時間やタイミングが取れるならそれもいいですよね。そしたら「この梅干し、梅吉みたいじゃない?」なんて日常で会話が弾む気がするんです。

――いっしょに妖怪を好きになっていくのは素敵ですね。

だいすけおにいさん:やっぱり共感してあげることとか共有してあげることで、子どもの「もっと知りたい」に繋がるし、「こうなんだよ」って教えたくなっちゃうと思うんですよ。だからあえて「あれ? 梅吉のおばあちゃんって誰だっけ?」なんて聞いてみるのもいいかもしれない。だから本当にいろいろな楽しみ方が広がる本だし、シリーズとしても長編なので長く深く親子でハマッてほしいなと思います。

■書誌情報
児童書版『妖怪の子預かります』
著者:廣嶋玲子
価格:各巻990円/10巻セット9,900円
出版社:東京創元社


 

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