「もちづきさん」「すしカルマ」……人生狂ったヒロイン=「逆ファム・ファタール」漫画人気の理由は?
様子のおかしなヒロインに魅了される理由
ダメ人間のヒロインといえば、「カドコミ」の『ダウナー系お姉さんに毎日カスの嘘を流し込まれる話』も外せない。一部で大きな話題を呼んだ同人音声「ダウナー系お姉さんに毎日カスの嘘を流し込まれる音声」のマンガ版で、原作同様に強烈な設定となっている。
コンセプトとしては、ミステリアスなお姉さんが「豆電球はつけると少し甘い匂いがする」「9階建てのマンションには必ず地下1階がある」といった嘘を延々と繰り広げるというもの。問題は話し相手が公園で出会った男子高校生で、毎日同じことを繰り返しているということだ。冷静に考えると、どう見ても不審者だろう。
背景設定が直接描かれることはあまりないものの、社会に馴染めていない人物という印象を否応なしに抱いてしまう。それを証明するかのごとく、「友達が多い」という嘘を吐いているところも描かれていた。
また「週刊コロコロコミック」で連載が始まった『ダウナーお姉さんは遊びたい』は、同作に触発されたような内容のマンガだ。アラサー風のお姉さんが、公園で知り合った中学生の少年を「ベイブレード」や「ハイパーヨーヨー」といった遊びに誘う物語となっている。
同年代で趣味を共有できる相手がいない、社会不適合者なのではないか……という不安を掻き立てられるが、そこがキャラクターとしての魅力につながっていることは否めないだろう。
さらにこのジャンルの究極系とも言えるのが、『ヤングアニマルZERO』(白泉社)と「ヤングアニマルWeb」で連載中の『ドカ食いダイスキ! もちづきさん』。もはやロマンスの気配すら存在せず、孤独に人生が狂っているという衝撃の設定だ。
主人公の望月美琴は、一見何の変哲もないかわいらしいOLだが、実は“ドカ食い”に依存している変人だった。満腹感と血糖値の急激な上昇によってトリップすることを「至る」と呼んでおり、巨大カップ焼きそばのマヨネーズがけや、ご飯4合分のオムライスなど、異常な量の食事をたいらげていく。
本人もしきりに自身の健康を心配するのだが、ドカ食いから抜け出せる気配は一切ない。読者はそんな破滅的な生きざまに戦慄しつつ、親近感と怖いもの見たさがごちゃ混ぜになった感情を押し付けられる……。
なぜ最近になってこうした作品が次々ヒットしているのか、その理由ははっきりとは分からない。ただ、あえて仮説を立てるなら、「魅力的なキャラが破滅するのを眺めたい」という倒錯した欲望がそこにはあるのかもしれない。もしそうだとすれば、それは「美女に破滅させられたい」という昔ながらのファム・ファタールとは真逆の現象ではないだろうか。
今後もマンガ業界で逆ファム・ファタールのブームが続いていくのかどうか、注目していきたい。