クインシー・ジョーンズ訃報に寄せてーーNONA REEVES・西寺郷太「時代や流行の変化を感じ常に挑戦する人」

西寺郷太、クインシー・ジョーンズ追悼文

 

◼️マイケルとは最強のライバル関係

ーーマイケル・ジャクソンとの、『オフ・ザ・ウォール』『スリラー』『バッド』などのプロデュース作品は特にクインシーの名声を確固たるものにしました。マイケルとの共同プロデュース作品においてはどのような印象をお持ちでしょうか。

西寺:クインシーとマイケルの関係は、先生と生徒、といった一方通行的なものではなく、一種、ポップ音楽史上最強の天才同士のライバル関係にあったと思います。その力関係は『オフ・ザ・ウォール』ではクインシーが強く8対2、『スリラー』で5対5から少しクインシー強めの6対4、『BAD』ではマイケルの力が強まり、クインシー3対マイケル7のようなバランスとなったのではと思います。いずれも傑作ですし、甲乙つけ難いのですが。例えばオアシスのリアムとノエルや、ビートルズのジョンとポール、ローリング・ストーンズのミックとキースのような、親愛と憎悪が入り混じるほどにお互いのパワーを限界まで引き出す間柄だったんだと思っています。

ーークインシーは、マイケル・ジャクソン以外でも素晴らしい作品をプロデュースしていますよね。

西寺:クインシーの功績を語る時に、マイケルとの作品だけがフォーカスされてしまうのは彼にとっては不服だと思います。カウント・ベイシーやビリー・ホリデイ、レイ・チャールズ、フランク・シナトラ、マイルス・ディヴィス、ジョージ・ベンソンなど、数多くのレジェンドや若い世代とありとあらゆる傑作を作ってきたのがクインシーなので。僕らのような80年代から彼を知る世代にとっては、巨匠、大御所のイメージがつきまといますが、元々クインシーは若い頃からジャズのスター達に可愛がられた究極の人たらしなんですよね。70年代以降はディスコやファンクといった当時の新たなリズムの魅力を、ジャズ出身ならではの優美さと芳醇さでエレガントに発展させ、世界中の老若男女に最もレコードを売る、という偉業を達成した凄まじい人です。

  それにクインシーはビッグ・バンドを率いた時代の金銭的苦労の経験もしているからか、音楽とビジネスを両立させることを意識していたことでポップスの世界で人気を極めることができたのだと思います。

ーー改めて西寺さんが今聴きたいクインシーの曲を3つ、理由とともに教えてください。

1.「ザ・シークレット・ガーデン」/クインシー・ジョーンズ 

声質と世代の違う天才シンガーを集めた集大成的バラードです。

2.「バック・オン・ザ・ブロック」/クインシー・ジョーンズ

当時のレジェンド・ラッパー、若手達を集結させた傑作。リアルタイムに思い入れがある曲です。

3. 「スピード・デーモン」/マイケル・ジャクソン 

トランペッターならではの、ストイックかつ鋭いホーン・アレンジが格好良すぎる曲。最近LAのハイウェイを運転しながら聴いた時が最高でした。

西寺:自分が一番夢中になって聴いていた1980年代後半の曲からの偏ったセレクトになりました。30曲選ぶといっても足りないのですが、今日の気分はこの選曲ということで。

◼️The Secret Garden

ーー改めて西寺さんがクインシーから受けた影響をお聞かせください。

西寺:クインシーやティト・ジャクソンもそうですが、子供の頃から好きで影響を受けた偉大なミュージシャンやアーティストが亡くなっていくことは悲しいですし、寂しいですね。ただただ、クインシーには感謝しかありません。

  僕は1973年生まれで、9歳の頃、日本にミュージック・ビデオが届いた『スリラー』期(「ビリー・ジーン」「今夜はビート・イット」「スリラー」)に衝撃を受け音楽に夢中になった世代です。1985年の「ウィ・アー・ザ・ワールド」のドキュメンタリーは擦り切れるほど観て、スタジオワーク、レコーディングや指揮を執る姿でプロデューサーとしての躍動するクインシー・ジョーンズの姿を目に焼き付けました。これからも「リアルタイムに間に合った世代」として遺された作品群や言葉を少しでも多くの人に伝えてゆきたいと思っています。

『クインシー・ジョーンズ自叙伝』(河出書房新社)

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