アメリカは今後どうなっていく? 池上彰監修の話題書からみる、大統領選と超大国の本当の姿
■トランプ、ハリス決着の行方は?
いよいよ、11月5日に実施されるアメリカ合衆国の大統領選挙。第47代大統領に就任するのは、返り咲きを狙う共和党候補のドナルド・トランプか、それともと初の女性大統領を目指す民主党候補のカマラ・ハリスか――激しい選挙戦から目が離せなくなっている読者も多いことだろう。
アメリカ大統領選挙は、あくまでもアメリカという一つの国のトップを決める選挙である。けれど、その結果如何によって世界に大きな影響を与えることはもちろん、同盟国である日本にとってもその影響は計り知れないものがある。そんなアメリカという国をこの機会に知るのに最適な一冊が、『アメリカ史 時系列×テーマ別だから一冊でわかる』(かみゆ歴史編集部/編集、池上彰/監修、朝日新聞出版/刊)である。
本書を監修するジャーナリストの池上彰氏は、日本にとってアメリカが無視できない存在である理由を、「世界でもっとも影響を受けている国である」こと、そして「多くの日本人にとって“憧れの国”だった」ことを挙げている。前者は政治経済や軍事などでの結びつきの強さ、後者は映画や音楽などの文化面での結びつきを意味する。
そして、「“民主主義の大国”として日本の先生のよう役割を果たしてきた」ことも見逃せないと指摘する。池上氏によれば、教育委員会やPTAなどのシステムや、都道府県知事や議会議員が別々の選挙でえらばれる二元代表制なども、アメリカから輸入された制度なのだという。つまり、日本はあらゆる面でアメリカの影響を受けてきた歴史があるのだ。
■アメリカ大統領にはどんな権限がある?
さて、アメリカは世界最強の超大国と言われるが、そのトップである大統領もまた強大な権限を持っている。本書によれば、大統領令という行政命令を出せることが挙げられる。これにより、議会の承認を得ずに政策を実行することができるのだ。こうした例を見ると、独裁者のような権力をもつ政治家が生まれそうに思えてくる。
ところが、大統領の権限は、実際はかなり制限が多いのだという。それはひとえに、独裁政治が行われないようにするためである。前出の大統領令の内容が、万が一憲法や法律に違反していた場合は、無効になってしまうこともある。また、大統領は法律案を提出することはできず、自分に都合の良い法律を作ることができないようになっているのだ。
権限が大きいといえば、アメリカを構成する“州”であろう。現在アメリカには50の州があり、日本の47都道府県と数字的にも制度的にも似ているな、と思う人も多いだろう。ところが、実態は似て非なるものなのだ。アメリカの州がもつ権限は非常に大きく、法律も税制も独自に制定できる。あくまでも中央政府に従う、日本の都道府県にはない強力な権限なのだ。
■トランプが銃撃された州はアメリカ誕生の地
そんなアメリカの州は、日本の都道府県以上に強烈な個性をもっている。アメリカは広大な面積を有しているので気候も異なるし、文化も異なる。世界屈指のリゾート地であるワイキキビーチがあるハワイ州、ポテトの名産地として世界的に有名なアイダホ州、映画の都・ハリウッドを擁するカリフォルニア州など、州の個性が際立っている。
トランプが演説中に銃撃され、負傷する出来事があったペンシルベニア州は、アメリカの歴史にとっても重要な州の一つだ。1776年7月4日、ペンシルベニア州の都市・フィラデルフィアで独立宣言が採択されたのだ。まさにアメリカ誕生の地と言っていい。世界遺産に登録されている独立記念館は、100ドル紙幣にも描かれたアメリカのシンボルになっている。
そんな歴史ある州で、銃撃を受けながらも力強く立ち上がるトランプの姿を写した“奇跡の一枚”といわれる写真は、支持者たちの団結力、結束力を高めることにつながったといわれている。
果たして、空前の激戦、接戦といわれる選挙戦を制し、第47代大統領に就任するのはトランプとハリス、どちらになるだろうか。本書ではそんなアメリカの歴史からリアルな姿までわかりやすく紹介しており、11月5日の投票日とそこから見えてくる超大国をより詳しく知ることができる、今読むべき内容となっている。アメリカは今後どこへ向かうのか。世界の行方を見えてくるような注目の書籍といえるだろう。