永遠のユートピア 『ぐりとぐら』が私たちに投げかけるものーー楽しいことだけが詰まった理想の世界
そして、永遠のユートピアへ
中川李枝子さんは1935年生まれ。東京都立高等保母学院を卒業後、保育士として働いていました。子どもたちを楽しませようという創意工夫の気持ちがやがて創作に向かっていき、1962年に『いやいやえん』で作家デビューしました。絵は妹の山脇(大村)百合子さんに依頼。二人はその後も多くの作品を一緒に作ることになります。
中川さんは、作詞家としての顔もあります。宮崎駿監督でスタジオジブリ制作のアニメ映画『となりのトトロ』で、主題歌となる「さんぽ」(作曲・久石譲)を作詞しています。
この「さんぽ」においても、「歩くことが楽しい」「景色が変わることが楽しい」という根源的な楽しさを歌っています
中川さんは2014年に『週刊朝日』誌上で宮崎駿監督と対談しています。そのなかで、宮崎監督はこんなことを言っています。
中川さんの絵本の素晴らしさは教訓めいていないところです。ファンタジーの主人公は一般的に、冒険して帰ってくると賢くなっていたり成長していたりする。でも中川さんの場合は賢くならないまま(笑)。子どもが冒険して帰ってきて成長するって嘘ですよね。
そうなのです。『ぐりとぐら』シリーズにおいても、彼らがすることは「おりょうりすること」「たべること」。それ以上のことはなにもしません。
多種多様な動物との楽しい共存の世界。これは子どもの世界であり、大人にとって理想の世界でもあります。私たちは『ぐりとぐら』を通して、あり得たかもしれない理想の社会を見出します。さながら「永遠のユートピア」なのです。
なぜ永遠なのか? それは『ぐりとぐら』が絵本だからです。
紙の本はデータと違って、一瞬で消えることはありません。この世界に2200万冊ある『ぐりとぐら』は、100年後も200年後も、いや1000年後も残っていることでしょう。人類の文明が存続する限り。