カルト団体のマーケティング術はビジネスにも応用可能なのか? 人の心の脆弱性を突いたその手法とは

カルト団体のマーケティング術

 現実でもネットでも、カルトへの入り口が数多く開いている昨今。カルトの手法をビジネスに転用するための手引きとしても、またカルトにハマらないための「虫除け」としても読める書籍が雨宮純氏の『危険だからこそ知っておくべきカルトマーケティング』だ。

 著者である雨宮純氏は、カルト団体や陰謀論、悪徳商法などについて調査・執筆をしているライターである。その視点から、「カルト団体で使われている方法を、一般的なビジネスに応用する」ためのノウハウをまとめたのが本書だ。

 帯に「良識ある人以外、絶対に読まないでください」とある通り、確かに悪用しようと思えば簡単にできるような、ちょっと危ない手法がわかりやすく説明された本である。紹介されているのは、いずれもカルト団体や悪徳商法の現場で使われている手法ばかり。人間の心に生まれる普遍的な脆弱性を突いたマーケティング方法には、思わずぞっとさせられるものも多い。

 本書によれば、そもそも現在カルト集団で使われているマーケティング方法は、戦後の米国で発生した「教会成長運動」と共通した部分が多いとされる。ビジネスにおけるマーケティングの手法をキリスト教の伝道活動に持ち込んだ結果生まれたメソッドが強力に作用した結果、アメリカにおいてはいまだに保守的な政治スタンスを持つキリスト教グループが、政治的にも強い力を持っている。

 この「教会成長運動」がなぜ生まれたのか、そして時代とともにいかにして巨大化していったのかを綴った本書の冒頭部分がまず面白い。経済性第一な資本主義の身も蓋もなさが、宗教という人間の感情や精神に強く結びつく営みに持ち込まれた結果、多くの人の心理的脆弱性を突いて強烈な結果を出すマーケティング手法が生み出されるまでの過程が、資料の出典とともに詳細に記されている。大量の資料を読み解きながらカルト・マーケティング成立の過程が綴られている点からは、雨宮氏のリサーチの丁寧さが垣間見える。

 成立過程について知った後は、実際のカルト・マーケティングの手法についてステップごとに解説される。本書で紹介されているのは、ザックリ書くと、「ふとした偶然から正義の戦士として選ばれ、特別なサインを共有する信頼できる仲間たちと共闘し、戦いに勝利する」というような、相当ベタなストーリーに顧客を取り込むことで金と労働力を巻き上げるためのメソッドだ。こんなストーリーが現実にあり、自分がその主人公であると頭から信じ込める人は、まずいないだろう。誤解を恐れずに書けば、人間の精神の幼稚な部分に向けてチューンされている手法だと思う。

 しかしその幼稚なストーリーに人間を取り込むべく、カルト側はありとあらゆる手段を使う。「退屈な日常を捨て、人生が一変する」というストーリーをさまざまな方向性で組み立て、偶然を装って普通の人間をそのストーリーに接触させ、「敵」を設定して物語に没入させる。そのための具体的な手段や運用例は本書を読んでいただきたいが、確かにタイミングさえマッチすれば、ひょっとしたら自分も転ぶかもしれない……というテクニックばかり。どのテクニックも、「確かにこれは、頭から没入できたらさぞ毎日が楽しかろうな……」と思わされるものがある。幼稚なストーリーを巧妙に語るからこそ、カルト・マーケティングは精神に強く作用するのだ。

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