「もうええでしょう」は危険信号! 『地面師たち』にみる危ない取引のシグナル
──というと、詐欺に引っ掛かるとはどういう状態なのでしょうか。
世の中の取引というのは、良くも悪くも色々な部分が「信頼」を基礎として進んでいるんです。「人間の間の約束は基本的に守られる」という前提がなければ、スムーズに物を売ったり買ったりできませんよね。
──それは間違いないですね。
その信頼を前提としたシステムの隙間につけこんでくるのが、詐欺師という存在なんです。だから、これはもう気をつけていてもつけいられる時はつけいられてしまう。実際、積水のような大きな会社が地面師詐欺に騙されているんですから、個人レベルではどうしようもない場合もあるんです。「詐欺に関する会話とはどういうものか」を知った上で喫茶店やホテルのラウンジに行くと、詐欺まがいの会話って本当によく聞こえてきます。詐欺はそこらじゅうにありふれている犯罪だからこそ、「危なそうだな」という兆候を早めに掴む必要があるんです。
──その兆候のわかりやすいものが、「取引を急かしてくる」というポイントなわけですね。
そうですね。基本的に、一度詐欺師に振り込んだお金というのは、たとえ犯人が逮捕されたとしてもほとんど戻ってきません。警察が捜査して犯人が捕まって有罪になり、民事訴訟で勝ったとしても、お金はまず戻ってこない。実際のモデルとなった事件でもそうでした。海外に送金すれば日本の司法の手は及びにくいですし、国内でも現金で全額おろして隠されてしまえばそれ以上の追及は困難です。残念ながら、大抵の場合、詐欺で振り込んだお金は、行方がわからなくなってそれでおしまいなんです。だからこそ、実際にお金を振り込む前に引き返すことが決定的に重要です。「もうええでしょう」というセリフは、その兆候をわかりやすく示すものだと思います。