『写らナイんです』『彼女はNOの翼を持っている』『雷鳴りて春来たる』漫画ライター・ちゃんめい厳選! 8月のおすすめ新刊漫画
『雷鳴りて春来たる』烏目松
最後に紹介するのは、100年の時を超えてやってきた大正時代の少女と令和の高校生たちが“自分の生きるべき道”を模索する、希望と前進の物語『雷鳴りて春来たる』。舞台は大正十二年。進路のことで父親と喧嘩して家を飛び出した島津ハルは、橋の上で雷に打たれて気を失ってしまう。目が覚めるとそこは100年後の令和5年の東京。同い年の高校生・星谷青太に保護されたハルは、青太の家族のサポートを受けながら令和の高校生活を送ることに。
そんな本作の推しどころを語るとしたら、まずは大正時代の女学生の間で流行った言葉や文化が色濃く描かれているところだ。「ユズユズする!」など、ハルから飛び出す当時の言葉は大変興味深く、教科書では決して得ることのできない“生きた歴史”に触れているような感覚がある。
そして、本作は一言でいえばタイムリープ×ボーイミーツガールものなのだが、すぐに恋愛や友情に転がるのではなく、時代を超えた出会った少年少女たちが“1人の人間”として尊重してコミュニケーションを取っているところが大変推せる。マジで“スペ”(これも作中に登場する大正時代の流行語)なのである。
例えば、ハルの正体を知ったクラスメイトたちは、その文化の違いや歴史の変遷を和気藹々と語り合う一方で「大正時代からタイムリープしてきたから助けてくださいってこと?」「 その(助ける)役割を押し付けようとしてるって分かってる?」と、時代関わらずに違和感を覚えたことはしっかりと本人に伝えるのだ。
どちらかの時代を上げるでも下げるでもなく、同じ歳の1人の人間として対話を重ねて、対等に関わろうとする大正と令和の高校生たち。そんな彼らを見ていると、人と対峙する上で大切なことを思い出させてくれる気がする。