映画『ルックバック』原作ファン絶賛の理由は?  実写的だった『チェンソーマン』との違い

映画『ルックバック』原作ファン絶賛の理由

TVアニメ『チェンソーマン』との違いは?

  なお藤本作品としては、『ルックバック』よりも先に、2022年10月から12月にかけて『チェンソーマン』がアニメ化されている。同アニメは実写映画のような表現を積極的に取り入れた演出方針となっており、声優陣も記号的ではなく抑揚のなだらかなリアル志向の演技を行っていた。これは元々藤本が映画マニアであり、『チェンソーマン』が実写映画の影響を受けた作風だったことと関係しているようだ。

  それに対して『ルックバック』は、同じ実写的な原作でありながら、大胆にアニメ的な表現を盛り込んでいるように見えるので、対称的な作風と言えるだろう。

  ただ、映画『ルックバック』にはアニメ的ではない要素も少なからず見受けられる。主人公の藤野と京本を演じているキャストは、河合優実と吉田美月喜であり、いずれも声優初挑戦となる女優。記号的でない演技によって、作品に独特のリアリティをもたらしている。京本を強い秋田弁訛りのあるしゃべり方に設定していることも、リアル志向の演出と言えそうだ。

  またキャラクターの表情や身振りなども、記号的ではない印象。実写志向を切り捨ててアニメ的表現に振り切ったわけではなく、2つの表現を絶妙なバランス感覚によって両立させていることこそが、映画『ルックバック』制作陣による強みなのかもしれない。

  藤本は映画や漫画、アニメなど、膨大な文脈のインプットに基づいて創作を行う作家だ。だからこそ『ルックバック』や『チェンソーマン』には、幅広い受け止め方ができる厚みがある。押山監督を始めとしたアニメスタッフがどのように作品を受け止め、アニメ化しているのか、劇場で確かめてみてほしい。

© 藤本タツキ/集英社 © 2024「ルックバック」製作委員会

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる