手塚治虫の作品、雑誌と単行本では内容が異なるのは本当? みずからストーリーまで変えてしまう編集の凄み

■手塚治虫の編集術を実感できる

『三つ目がとおる ミッシング・ピーシズ』(発売:リットーミュージック、発行:立東舎)

  2024年7月10日、リットーミュージックから発売(発行は立東舎)される『三つ目がとおる ミッシング・ピーシズ』話題になっている。アニメ化もされた手塚治虫の漫画『三つ目がとおる』の雑誌掲載時の初出版と単行本版を見比べることができ、話題になった『ブラック・ジャックミッシング・ピーシズ』に続き、手塚の編集術を堪能できる一冊になりそうだ。

 『三つ目がとおる』は『ブラック・ジャック』と同時期に「週刊少年マガジン」で連載された、手塚の代表作の一つ。今回の書籍では、新たに発掘された素材を含む、約60枚におよぶネームやキャラクタースケッチ、さらには連載時の扉絵や自筆のシノプシスなどの関連資料も多数掲載されるという。

  主人公の写楽保介のキャラクターデザインは、手塚がいくつも案を描き、アシスタントに見せて決定した。手塚の著書『マンガの描き方』でも紹介された有名なエピソードだが、この本にはそのラフスケッチの実物も掲載されている。

■何度も何度も描き直す手塚治虫

『三つ目がとおる ミッシング・ピーシズ』中面より

  こうした手塚のマニアックな本が人気なのは、手塚独特の漫画の作り方にある。手塚は雑誌に掲載された時点で、漫画を完成と考えることは決してなかった。単行本化される際に加筆修正を行うことはしょっちゅうで、さらにはオチまで別物に替えてしまうこともあった。そのため、雑誌と単行本で内容が異なるケースがままあるのだ。

  例えば『火の鳥』のように何度も単行本化された作品は、出版された年代によってセリフが異なっていたりする(例えば、セリフの中にある芸能人の名前を、出版時点で流行している人物に変更するなど)。「乱世編」などは角川書店版と、講談社の手塚治虫漫画全集版では話の構成がまるで違っている。

  そのため、「すべてのバージョンを読みたい」という熱心な手塚ファンは、雑誌は言うまでもなく、あらゆる出版社からを出た単行本をすべて集めようとする傾向にある。手塚の作品が掲載されている雑誌が中古書店で高騰している背景には、こうした事情もあるのだ。

  今回刊行される『三つ目がとおる ミッシング・ピーシズ』に収録される「キャンプに蛇がやってきた」も、絵の変更こそほとんどないものの、セリフがまるまると言っていいほど変更されており、内容が別物になっている点が注目されている。こうした手塚の試行錯誤に触れることができる意味でも、ファン垂涎の一冊になりそうだ。

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