『賭博黙示録カイジ』の影響も? 直木賞候補のゲーム小説『地雷グリコ』が面白い
記憶で書くので大意になるが、作者は挨拶で、「この世界が〝フェア〟なものであってほしい」と語っていた。また本書の第三話「自由律ジャンケン」で真兎は、「フェアな勝負ならば受けます」といっている。そう、真兎も対決する相手の高校生も、よくギリギリのラインを攻めるとはいえ、すべてルールの範囲内でフェアに勝負している。これに対して、唯一の大人の対戦相手だけが、ルールを逸脱するのだ。それにより作者の考えるフェアな世界が、より明確に見えてくるのである。全体の構成も、実に考え抜かれているのだ。
もうひとつ付け加えよう。物語の視点の多くは、真兎の中学以来の友人の鉱田が担っている。読者と同じ立場で、ハラハラしたり驚いたりする役割だと思って読んでいた。しかし、ラストの「フォールーム・ポーカー」で鉱田にスポットが当たると、ゲーム小説が青春小説へと変化し、気持ちのいいフィナーレを迎えるのだ。この企みも最初から考えていたのだろう。読んでいる間、頭脳と心を何度も揺さぶられる。これだから青崎作品は止められないのだ。
なお本書は、第七十七回日本推理作家協会賞の長編および連作短編集部門も受賞した。また、この書評を書いている時点では結果が分からないが、第百七十一回直木賞の候補になっている。是非とも直木賞も受賞してほしいものだ。そして漫画の『賭博黙示録カイジ』と同じように、本書の登場によって面白いゲーム小説が、次々と生まれることを期待しているのである。