藤かんなが明かす、バレエ炎上の背景とその覚悟 「多くの人がグレーゾーンとして曖昧にしていたことを明るみにしてしまった」

藤かんな『はだかの白鳥』インタビュー

誰かに手を差し伸べることのできる本になれば

――感情を、誰かに受け止めてもらえるというのも、大事なことですよね。

藤:そう思います。会社員時代のほうが、今よりずっと、孤独でした。入社したばかりのころは、当時の彼氏に愚痴を言ったりしたけれど、甘えすぎて「しんどいからもう言わんとって」と言われてしまった。確かに相手も疲れているのに感情を押しつけるのは我儘だよなと、ノートに書き散らすようになったのはその頃からです。それでも、昇華しきれないつらさを発散するように、たくさんの男の人たちとセックスするようになり……。

――そのせいで、よけいに心がすり減っていく感じは、共感する女性も多いんじゃないでしょうか。

藤:不思議ですよねえ。ほんと、人ってあわせ鏡なんだなと思います。なんやこいつら、中出しするくせに避妊ビル代も出せへんのか、卑怯やなとか。そういう、なあなあにしてくるセックスより、ビジネスとして相手を対等に扱うAVのほうがよほどクリーンだと思うんですよね。

――個人的には、そうやって男性に絶望しながらセックスは肯定し続けているのが、ちょっと不思議なのですが……。

藤:ああ、それは、セックスすること自体が私は好きだからだと思います。たくさんの男性と遊んでいたときも、その行為にはいちいち感情移入をしていなくて、この人はどんな形をしているのだろう、どういう反応を見せて動くのだろう、という好奇心のほうが強かった。言い方は悪いですけど、一種のゲーム感覚でした。

――そういう意味でも、確かに、おっしゃるように女優のお仕事は向いていたんですね。

藤:そうですね。もともと私の親しい人にはからっとした気質の人が多いんですけど、肚くくってやってやるぞと決めてからは、よりいっそう、そういう方々に出会えるようになった気がします。やっぱり、人ってあわせ鏡なんだなあ、と。会社員時代は、個性を出せというわりには空気を読むことを求められ、しんどい思いをすることも多かったけれど、今は私という存在をまるごと受け止めてくれる人たちがそばにいてくれる。独創的すぎると真っ赤に添削されて突き返されていた文章も、それがいいとこうして本にしてもらえた。自分の感情を自由に表現できて、それを受け止めてくれる人がいるというのは、とてもありがたいことですね。

――それは、誰もが手に入れたくて、なかなか手に入れられないものですしね。

藤:そういう、枠からはみだして自由にしているように見えるところも、他人があれこれ物を言いたくなる原因なのかなあと思います。昔から、私は思いついたことをすぐ行動にうつすタイプなんですが、大学時代に友達から言われたことがあるんです。「あなたの生き方は自由でいいね。私はそんなふうになりたくないけど」って。

――え、ひどいですね。

藤:ねえ(笑)。炎上したとき、そのことを思い出しました。もちろん、真摯に受け止めなくてはいけない意見もあったんですけどね。

――女優として一番になりたい、と本の中でもおっしゃっていますが、物書きとして今後の目標はありますか?

藤:三作目までは、エッセイのかたちで、思うところを書いていきたいです。先ほども言ったように、AV業界の内実は外にいる人には見えない。どんなに検索しても、面接ではどういう服装をすればいいのかすらわからなかったくらいですからね。そのあとは、小説を書いてみたいです。

――お母さまの影響で、宮部みゆきさんがお好きだと本にも書いてありました。

藤:女性作家さんが好きなんです。とくに好き……というか影響を受けているのは西加奈子さん。関西弁まじりの文体もそうですが、偏見をとっぱらって好きなように生きたらいいやん、という開放的なメッセージがありつつ、言葉の選び方は本当に繊細で、簡単にそうとは生きられない人たちの苦しさをも掬い取ってくれる。読んでいて、何度も救われる言葉に出会いました。『はだかの白鳥』を読んでくれた同じ事務所の女優さんが、覚えておきたい言葉がいくつもありました、と感想をくれたとき、これまでたくさんの作家さんから与えてもらってきたことを、少しは返せたのかもしれないと思うと、本当にうれしかった。次回作も、誰かに手を差し伸べることのできる本になればいいなと思っています。

■書籍情報
『はだかの白鳥  阪大大学院卒でAV女優に』
著者:藤かんな
価格:1800円(税込)
発売日:2024年5月29日
出版社:飛鳥新社

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