ポップカルチャーと都市伝説の関係とは? 人気漫画『呪術廻戦』『虚構推理』……デフォルメされる怪異や怪物たち
■怪異や怪物、姿を変えて登場する人気漫画
姿が変わった例と言えば人気コミック『呪術廻戦』のボスキャラ、両面宿儺(リョウメンスクナ)も当てはまる。両面宿儺に関する記述は非常に古くから存在し、377年ごろ、第16代仁徳天皇の時代、飛騨に「両面宿儺」という化け物が現れたとの記録が『日本書紀』に記されている。両面宿儺は身の丈一丈(約3メートル)、2つの顔に4本の手足、2本の剣と4組の弓矢を持つ怪物で、当時の朝廷に逆らい人々を苦しめたため、難波根子武振熊(なにわのねこたけふるくま)に討たれたとある。『日本書紀』に登場する両面宿儺は異形の怪物であり、『呪術廻戦』に登場する「呪いの王」としての側面は持ち合わせていない。マンガ『地獄先生ぬ〜べ〜』にも両面宿儺は登場し、多少のアレンジを加えつつも同作に登場する両面宿儺は『日本書紀』の異形の怪物としての姿に近い。
「呪いの王」としての両面宿儺の姿を思わせるのはネットロアに登場する現代アレンジ版だ。ネット掲示板の「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?」(通称・洒落怖)に2005年に投稿された話に登場する両面宿儺は、大正時代に見世物小屋に出された奇形の人間が、カルト教団によって強制的に即身仏にさせられて呪物化したものとの設定だった。「両面宿儺」の名前がついたのは頭が2つある姿が本家・両面宿儺を思わせるためで、飛騨の伝説に登場する両面宿儺とは直接的には無関係である。
ネットロア版の両面宿儺は数々の災害を巻き起こすまさに「呪いの王」であり、『呪術廻戦』バージョン両面宿儺のルーツはネットロアにあると考えた方が自然だろう。ネットロアは作者不詳で著作権も不明確なため、複数の書き手によって話が変化していくことも珍しくない。現代都市伝説を扱った作品でも特に『裏世界ピクニック』はダイレクトにネットロアを扱っており、『虚構推理』のエピソード「鋼人七瀬」は話が変化するネットロアの側面を描いている。
また、飛騨の伝説に登場する両面宿儺には鬼神や悪龍を撃退し、農耕や信仰を飛騨の人々に教えたローカルヒーローとしての側面がある。伝説も古くなると様々な側面を持つという好例である。