角野栄子×原ゆたか「角野栄子あたらしい童話大賞」イベントレポ 物語の創作を志す人に向けて

「角野栄子あたらしい童話大賞」イベントレポ

物語はたいてい最後の三行でつまらなくなる!? 本をよく読む人ほどやりがちなこと

時折本に目を向けながら話す角野栄子さんと原ゆたかさん

角野:新しい形に変える、ってことが大事ですよね。自分の経験を何度も何度も咀嚼していくうちに、そのとき感じていた気持ちがリズムをもって立ち現れてくる。私、35歳ではじめて本を書いたとき、自分がブラジルで経験して楽しかったことをたくさん書いちゃったの。そうしたら編集の人から「これは角野さんにとって大切な思い出だけど、読者には何が何だかわかりません」と言われてしまって。そうか、読者がいるのか、ってそのときはじめて理解しました。それで何度も何度も書き直して、300枚あった原稿を70枚に縮めたの。ただ修正するんじゃないんですよ。毎回、頭から書き直すの。そうしないと新しい発見が生まれてこないんですよね。

原:僕もいまだに、一つの作品につき、20回も30回も書き直していますよ。それでも、編集さんに渡すと、細かく、チェックされて戻ってくるんです。ちょっとめんどくさいと思うときもありますが(笑)、いちばんおもしろく読者に伝わるようにするためには何度でも書き直しますね。

角野:作家はいちど書き上げた時点でもうその世界にはいませんからね(笑)。書き直すには、もういちどその世界に戻らなければなりません。でも、ごもっともと思える指摘があればやっぱり直したいし、それでもっと面白くなっていくということもあるから。その、書き直して書き直して新しいものをつくり出すという作業が好きでないと、この仕事は続きませんね。先ほど言ったいたずら描きも、失敗したって、何かの作品にならなくたって、かまわないんですよ。こうすれば本にしてもらえるんじゃないかとか、職業にして生きていくためにどうしよう、なんてことを真っ先に考えてどうにかなるような世界じゃない。小さな読者に「こんなのありなの!?」って思ってもらえるかどうか、好奇心と冒険心を追求していくことを第一にしていかないと。

原ゆたかさんは、子どもたちに教えるというスタンスは大人として良くないと語る

原:小さい子って、まだ何も知らないじゃない。これからわくわくする出来事が山のように待ち受けているわけでしょう。その刺激となるようなものを、提示したいですよね。本を書くときにも、普段子どもたちに接するときにも、「教えてやろう」なんて姿勢では、絶対にだめ。大人は、自分が知っていることを教えてあげたり、失敗しないように先回りして伝えたくなる。でも、失敗の悔しさも大変さも、実際に経験しなければ感じられないことですよね。子どもたちの経験を奪うことになってしまう。私たち大人ができることは、子どもたちが好きになる可能性のある世界を現実や本の中でできるだけたくさん提示してあげることだと思うんです。

角野:たいていの作品は、最後の三行がよくないの。エッセイとか、童話とか、いろんなコンテストで審査員をしたことがあるけれど、たいてい最後の三行でお説教めいたことを入れてしまって、つまらなくしちゃう。児童書だから、童話なのだから、と他の作品と比べて型を決めてしまうようなことも避けてほしいですね。本をよく読む人ほどやってしまいがちで、私も、最初の一冊を出したあと、どうしても型にはめてしまいそうになって、7年くらい、発表もせずに一人で書き続けていたの。そうしてようやく「自分が書くんだから、どんなものを書いてもいいんだ」って心を自由にさせることができたんです。

原:本は、いちど閉じられたら、続きを読もうともう一度開いてもらえないことが多いと思います。見ていればお話が入ってくるアニメや動画と違って、自分で「読む」という行為は、意志が必要なので。本が好きな子は、どんな本でも読めるのでしょうが、読み慣れていない子にはめんどくさい媒体なんです。つまらない、めんどくさいと思われたらもう二度と本を読もうとは思ってもらえないかもしれない。だから、はじめてひとりで読む本は、どんどんページをめくりたくなって、わくわくさせてあげて、気がついたら読み終わっているようなものにしたい。そのためにはどんな工夫ができるのかを、それぞれ考えて作ってほしいですね。

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