プロレスの悪役、善人説は本当か? タイガー・ジェット・シン、旭日双光章から考える

 ■悪役レスラー、リングを降りたらみんな紳士的?

日本プロレス事件史 vol.24 悪党の世紀 (B・B MOOK 1326 週刊プロレススペシャル)

  故アントニオ猪木のライバルとしてプロレス史に残る激闘を繰り広げたタイガー・ジェット・シンに、令和6年春の旭日双光章が贈られたというニュースは多くの人を驚かせた。

  サーベルタイガーを咥えてリング内外を暴れまわるその姿は、異名通りの狂える虎。そのイメージからすれば意外な人選だが、オールドファンなら、リングを降りたシンは、紳士的だったことは周知の事実。とはいえ、まさか、旭日双光章まで?  というのが大方の印象ではないか。

  シンはインド出身、カナダ在住の元プロレスラー。旭日双光章にも外国人枠があり、シンの外国人叙勲は、東日本大震災で被害を受けた福島県の子どもたちの支援を評価されての受章だったようだ。

  外国人に限らず、悪役レスラーにはナイスガイが多い。上田馬之助ほどファンを大事にしていたプロレスラーはいないし、ダンプ松本も素は涙もろく、面倒見のよい方。ラッシャー木村に至ってははぐれ国際軍団として新日本プロレスに参戦したものの、ヒールに無理あがるほどいい人のオーラが溢れすぎていた。だが、当時の猪木ファンからは本当に憎まれていたため、ラッシャー木村の自宅には卵が投げつけられ、飼っていた愛犬はストレスで円形脱毛症になったという切なすぎるエピソードも。当時のヒールは、自己犠牲をいとわない人にしかできない芸当だった。

  タイガー・ジェット・シンも、昭和を代表するトップヒールレスラー。1973年に新日本プロレスに初来日し、さまざまな話題をふりまいた。オールドファンからすれば、「アントニオ猪木夫妻 新宿伊勢丹襲撃事件」が思い起こされるはずだ。新宿伊勢丹の前、一般人が大勢行きかうなか白昼堂々、猪木と当時の妻・倍賞美津子がタイガー・ジェット・シンによって襲われるという事件で、通行人から警察にも通報される騒ぎになったが、新日本プロレスはシンを起訴することなく警察には謝罪をしている。

  演出だったのかどうかは闇の中だが、とにもかくにもそれが大きな話題となり、シンは猪木と因縁の抗争劇を繰り広げ、新日本プロレスの運営も軌道に乗っていくのだった。

■シンはリング外でも紳士的な態度

  ちなみに、タイガー・ジェット・シンとタッグを組んでいた上田馬之助も児童養護施設を慰問していた。上田はリングを降りてもシンをサポートしていたし、悪役同士、よほど馬があったのではないかと思うが、人格者同士、お互いのリスペクトの念があったのではないかと想像する。シンの児童養護施設も上田の影響があったのかもしれない。

  今にして思えば、リング外でサーベルを振り回して暴れているシンは、老人や子供、女性を避けながら動いていたし、当然サーベルの剣先は丸めてあった。当時のレフェリー・ミスター高橋も自書で、シンは紳士だと語っている。カナダでは実業家で名士として知られている存在だ。

  ちなみに、筆者がタイガー・ジェット・シンを知ったのは、エピソードの半分以上が虚構や誇張だといわれている梶原一騎先生の名作漫画「プロレススーパースター列伝」。「おれにとってイノキは……永遠の恋人なのかな?」とかわいい笑顔で語っているシンは、到底悪いやつには見えなかった。というか、よっぽど猪木のほうがぶっ飛んでいる。

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