いきものがかり 水野良樹 × 辻堂ゆめ 対談 J-POPとミステリーの共通点とは?

辻堂ゆめ×いきものかがり水野良樹

ミステリーとJ-POPの共通点

——辻堂さんの新作『二人目の私が夜歩く』は、昼と夜で一つの身体を共有する茜と咲子の関係を軸にした作品です。

水野:僕も読ませていただきましたが、すごく面白かったです。まず「どうやってこんな話を思いつくんだろう?」と驚きました。

辻堂:実はこの小説も、自分の体験がもとになっているんです。寝たきりの女性の話し相手になるボランティアをしている高2の女の子が出てきますが、私の祖母が実際にそういうボランティアをやっていたことがあって。祖母の家に遊びにいったとき、「今日はボランティアの日だから」と言われて、付いて行ったことがありました。私が行ったのはその1回だけだったんですが、後にその方は人工呼吸器の管が抜ける事故で亡くなってしまって。私はそのことを受験が終わった後で知らされて、「もう1回行こうと思っていたのに」と泣いてしまったんですが、そのエピソードもこの小説に盛り込んでいます。

水野:登場人物たちのそれぞれの視点が丁寧に描かれているのも印象的でした。ボランティアのために訪れる部屋にしても、人によって見え方が違うし、「実はこう思っていたのか」みたいなことが物語に組み込まれていて、それが新鮮な驚きに繋がっていく。辻堂さんご自身の視点だけではなく、いくつもの他者が存在してるような印象を受けます。その多面的な視点はどのように持ち得たのでしょうか?

辻堂:複数の視点から描くというテクニックは、デビューしたばかりの頃は備わっていなかったと思います。ミステリー小説でデビューしたこともあって、トリックを作るうえで登場人物の視点の違いを取り入れることがあって。書いていくなかでキャラクターを自分と切り離して考えられるようになったのかなと思います。

水野:なるほど、修練によって身につけられるものなんですね。

辻堂:場数を踏んだおかげですね。私はエンターテインメント小説全般が好きで、そのなかにミステリーというジャンルがあるという捉え方をしているんです。ミステリーを専門的に極めたような作家さんには、トリックの作り方などでは到底、敵わないところがありますが、登場人物それぞれをどのように描くのかなどによって、自分なりの色を出していきたいなと。

水野:物語の構造的な面白さだったり、それまでとまったく違う景色がバッと見えてくるような直感的な面白さもありますが、やはり登場人物一人ひとりの描写が素晴らしいですよね。それぞれに感情移入できるし、愛おしくなります。

辻堂:そう言っていただけると、すごくうれしいです。ミステリーのなかには人の死を(小説上の)イベントのように扱う作品もあり、それはそれでジャンル小説のあり方としてアリだと思いますが、私自身は小説の中で生死や人生を描くのであれば、ちゃんとその人物を描きたいと考えています。

——ストーリーの展開によって登場人物の違った表情や性格が見えてくるのも印象的でした。キャラクターの設定は最初から細かく決めているんですか?

辻堂:最初にプロットを組み立てますが、一人ひとりの細かい性格や喋り方などはその段階では決めきれなくて。書きながら少しずつ作っていくことが多いですね。

水野:僕も二作目ではプロットをしっかり作りました。一作目は当てずっぽうでスタートしたので、えらいことになったんですよ(笑)。何度も書き直したし、編集者の方が見捨てずに並走してくださったおかげで何とか書き上げることができました。なので、二作目はある程度、道筋を決めておこうと思ったんです。

清志まれ『おもいでがまっている』(文藝春秋)

辻堂:二作目の『おもいでがまっている』には謎解きの要素もあるように思いました。ジャンルとしてはミステリーではないと思いますが、勝手に親近感を覚えてしまいました。

水野:仕掛けなんて作れないので、一生懸命書いただけなのですが、そう仰っていただけて嬉しいです。核となるテーマや設定を決めて、あとは伝わりやすいように順番を入れ替えたり、キャラクター同士の関係性を見直して、修正してという感じで仕上げていきました。まだ二作しか書いていないので、小説執筆についてはわからないことも多いです。そもそも辻堂さんは、どうしてミステリーを書こうと思ったんですか?

辻堂:謎解きやトリックを使ったエンターテインメント的な驚きも好きなんですが、人間ドラマを描いた小説も好きなんですよね。その両方が入ったものを書きたいと思ったのがきっかけだったような気がします。ミステリーの様式美みたいなものにも興味があって。

水野:様式美があるということでは、J-POP的な部分もあるのかもしれないですね。Aメロ、Bメロがあって、サビが来る!っていう。

辻堂:そんなふうに考えたことなかったですけど、確かにそうかもしれないです。定番の型があるというか。

水野:小説の冒頭にインパクトのあるシーンを持ってくるのは、曲でいうと頭サビみたいなものかもしれませんね。歌は長くても5分ぐらいですけど、「ここで盛り上がりを作って、このあたりで落ち着かせて、ここでダイナミクスを付ける」みたいなことは長い文章にもあるんだなと。それも実際に書いてみて気づいたことですね。

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