【連載】速水健朗のこれはニュースではない:自然選択説とダッドスニーカーブーム
次にくるのは「ダッドシャツ」?
『統計学を拓いた異才たち―経験則から科学へ進展した一世紀』(デイヴィッド・サルツブルグ著)という本を読むと、20世紀前半が統計学の発展期だったことがわかる。そして、統計学者たちが世界中で人間の寸法を測る話が登場する。これは19世紀半ばのダーウィンの発見と関わっている。ダーウィンは、生物の変化はランダムに訪れる。そして、環境に適応した種が自然選択によって進化していくと説いた。20世紀の統計学は、世界中の民族の中で進化が適応する民族、していな民族があるのではないかと調査を始める。先住民族と西洋人を統計で調べると違いはあるのか。じゃあユダヤ人とアーリア人はどうなんだ。こうした研究の中から優生学が生まれてくる。ここではそれは本筋ではないので触れるだけにして、大量に採寸して、その統計データから、既製服の市場が発展したというところに立ち戻る。
ちなみにサイズの基準がない時代は、採寸して服をつくっていた。それができるのは裕福な層。労働者たちは、バラバラのサイズの服を着ていた。チャップリンが映画の中でオーバーサイズの服を着ているのも役柄が労働者だからだ。
現代のオーバーサイズブームの一端には、古着ブームも関係しているかもしれない。二昔前は、オーバーサイズの古着が二束三文で売れ残っていたが、それを着る人々がオーバーサイズの流行をつくったのかもしれない。一旦オーバーサイズが流行すると、流行以前の服を全部買い換えないとバランスがおかしくなってしまう。業界としては、買い替え需要を生み出せる。業界もよく考えたものという見方もできる。
恐竜は、大きくなりすぎて絶滅したが、ビッグシルエットのブームはどうだろう。それとは別に、2024年は、「グランパコア」、おじいちゃんぽいかっこをするのが流行するのだという。個人的にずっと気になっているのは、商店街などで見かける紳士用テイラーショップに置かれているポリエステルの柄付きの薄い長袖のポロシャツ。昭和のお父さんたちが、休日に着ていた、ゴールデンベアとかクロコダイルとかのあれを「ダッドシャツ」と名付けておくが、あれは今のうちに買っておいた方がいいと思う。結構サイズが小さいので、ワンサイズオーバーが狙い目。ちなみに当時のサイズ記述は、「XL」ではなく「2L」「3L」である。