五十嵐大介『かまくらBAKE猫倶楽部』は奇想に満ちた傑作だ 美しくも恐ろしい綺譚集の魅力

五十嵐大介『かまくらBAKE猫倶楽部』は傑作だ

 「鎌倉」で、「猫」で、「怪異」と来た。なんとも読書欲がそそられるモチーフの数々だが、それを奇才・五十嵐大介が描くというのだから、これはもう読むしかないだろう。

 先ごろコミックスの第1巻が刊行された、五十嵐大介の『かまくらBAKE猫倶楽部』(講談社)は、この世とあの世が交差する古都・鎌倉を舞台にした、美しくも恐ろしい綺譚集だ。

 主人公は、猫雑貨店「かまくら猫倶楽部」で働いているガクトとマヤ(物語の語り部は別に存在する)。彼らが働く店には、なぜか、時おり「ここは『化猫倶楽部』ですか?」といって迷い込んでくる人たちがいる。鎌倉には猫にまつわる古くからの噂があり、それは、「鎌倉のどこかにある『化猫倶楽部』に行けば、いなくなった猫に会うことができる」というものだった――。

 ガクトはいう。うちの「お客さんの中に『化猫倶楽部』に行ったことのある人が何人か」いて、「その人たちは、決まってこの店で猫にまつわる不思議な話をしたあとで、『化猫倶楽部』に行ったって言うんです」

 ただし、人によっては、「化猫倶楽部」は、「大きな日本家屋」だったとも、「古い洋館」だったとも、あるいは、「マンションの一室」だったともいい、後日、ふたたび訪れようとしてもどうしても見つからないのだという。

 そして、客たちは語り出す。猫と人間が織りなす怪異の物語を――。

五十嵐大介の真髄は奇想のショートストーリーにあり

 そう、この『かまくらBAKE猫倶楽部』という作品は、第1巻の終わりに収録されている、ガクトとマヤの“秘密”を描いたとおぼしき物語の他は、基本的には1話完結の「怪談」が続いていく、いわば五十嵐大介版(というか猫版?)「百物語」だ。

 起承転結があるようなないような、奇想に満ちたショートストーリーの数々は、どこか夏目漱石『夢十夜』や内田百閒の短編群、あるいは、五十嵐大介の作品でいえば、初期の『はなしっぱなし』に収録されている幻想譚を思わせる。

 いずれにせよ、この十数年、『海獣の子供』や『ディザインズ』のような、どちらかといえば“大きな物語”に挑んでいた五十嵐だが(それはそれで素晴らしい作品ではあったが)、こうして初期の『はなしっぱなし』風の掌編の連作をふたたび描いてくれるというのは、昔ながらのファンとしては嬉しいかぎりだ。

 むろん、第13話や第14話を読んだ感じでは、この先、本作が“大きな物語”へと変化していくこともないとはいえないのだが、私は、漫画家・五十嵐大介の真髄は、夢とうつつの境い目で起きるちょっとした不思議を描いた「小品」にあると思っている。できることなら、いまの形のまま、100の怪異を――いや、「百物語」ならば99で止めておくべきか――を描き切ってほしいと思う。

 なお、蛇足かもしれないが、本作は傑作である。

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