モキュメンタリーホラー小説ブームを牽引する雨穴『変な家』 担当編集者に聞く、シリーズ誕生の背景
「連絡手段はメールのみで、一度も顔を合わせることなく制作が進んでいきました。容姿も声も年齢も性別もわからない状態です。原稿はちゃんと届くのですが、遺体をどんな風に切断するとか、その遺体を隠しておく地下室についての話とかゾッとするアイデアが随所に書かれていて、もしかしたらこの話は実体験に基づくもので、雨穴さんは本物のシリアルキラーなんじゃないか……と恐ろしくなりました。今となっては笑い話ですが、刊行後に読者やテレビ局のスタッフなどから電話があって『本当にあった話なんですか?』と聞かれることも度々あったので、私だけではなく、多くの方がリアリティを感じる作品なのだと思います」
次々と届く原稿はどこまでが真実でどこからが虚構かがわからず、雨穴氏との仕事自体がモキュメンタリーホラーさながらの様相となっていったが、しかし本の構成には雨穴氏の細やかなこだわりがあり、その手法は感心せざるを得ないものだった。
「このページはこの文章で終わって、次の文章はここから始めるとか、間取り図を出すタイミングとか、DTPデザイナーが一度組んだものを雨穴さんが配置し直して、まるで動画を観るような感覚で読めるような仕掛けになっている。出版業界の人では出てこない発想がたくさんあって、この形式がきっとYouTubeに慣れ親しんだ世代に受け入れられたのでしょう。活字を読むのがあまり得意ではない方や、はじめて小説に触れる小中学生にも読まれています」
売り上げのデータを見ると、20代~40代の女性が6割近くを占めており、母親が子どもに買い与えているケースも多いようだ。読者ハガキには「息子がはじめて本を買ってほしいとお願いしてきた」「朝読でクラスのみんなが読んでいる」といった内容が目立つという。
「現在のモキュメンタリーホラーのクリエイターは、2000年代に流行したオカルト板を若い頃に読んでいた世代なんじゃないかと思います。当時の読者参加型ホラーを、YouTubeやSNSで新しい形に進化させて発信している印象です。そこで培われた視聴者を飽きさせない工夫が改めて出版物に活かされたものが、現在のホラー小説の新しい流れを作っているのではないかと思います」
従来の小説のセオリーにとらわれず、柔軟な発想の本作りで幅広い層の読者を獲得したモキュメンタリーホラー小説。『変な家』に夢中になった子どもたちの中から、いずれまた新たな表現が生み出されるはずだ。