「EXILEのライブはワンステージでフルマラソン並みのカロリー量」 EXILEフィジカルトレーナー 吉田輝幸 × スポーツドクター 二重作拓也 対談

EXILEトレーナー×格闘技ドクター対談

 格闘技、スポーツ、音楽などの分野で、アスリートやアーティストをフィジカルな側面からサポートするドクター・二重作拓也氏が書籍『可能性にアクセスするパフォーマンス医学』(星海社新書)を刊行した。人間の脳や身体の可能性について医学的背景をベースに解説する本書では、「視る」「呼吸する」といった具体的な側面から「パフォーマンスとはなにか」に迫っている。

 その刊行を記念して、リアルサウンドブックでは二重作氏とEXILEフィジカルトレーナー・吉田輝幸氏の対談を実施。吉田氏はEXILEのパフォーマンスアップに従事し、自らのパーソナルトレーニングジム「PCP」でプロデューサー兼パフォーマンスコーチを務めている。第一線で活躍するお二人がアーティストの身体について語り合った。(篠原諄也)

参考:EXILE NAOTO × スポーツドクター 二重作拓也 対談

三代目 J SOUL BROTHERSのパフォーマンスは本物

左、吉田輝幸氏。右、二重作拓也氏。

ーー二重作さんは『三代目 J SOUL BROTHERS PRESENTS "JSB LAND"』の東京ドーム公演を観たそうですが、いかがでしたか。

二重作:「本物を観た」というのがいちばんの感想です。音楽もダンスもすべてがリアルでした。最先端のライティングやサウンドシステムが駆使されていますが、小さなライブハウスで体験したとしても「これは感動するだろうな」と思いました。それを東京ドームという大きなフォーマットに合わせて、より伝わりやすい形にされている気がしました。

 かつての日本のエンターテインメントでは、ある程度システムや構造が出来上がっていて、そこに歌い手やダンサー、タレントが入る、という時期があったように思います。しかし、三代目J SOUL BROTHERSの皆さんは、エンターテインメントとは何かを突きつめつつ、ゼロから歌やダンスを創造されていると感じました。ですから「リアルな肉体の表現を浴びた」、そんな記憶が僕の中にズシリと残っています。

『三代目 J SOUL BROTHERS PRESENTS "JSB LAND"』東京ドーム公演より

ーー二重作さんご専門の医学やコンディショニングの観点からはどう感じられましたか。

二重作:あれだけハードなパフォーマンスを3日間連続でこなしている。それだけにやはり身体のことは気になりました。練習に相当な時間をかけているでしょうから、フィジカルの面で相当な負担がかかるはずです。途中、「ちょっと足の接地角度がズレたら怪我をしかねないような高度な技術」もたくさんありました。NAOTOさんなんて、格闘家でも簡単にはできない旋風脚(せんぷうきゃく)を流れの中で軽々とやっていましたから。そうした「安全性とパフォーマンスの両立」みたいなところは、吉田トレーナーがいつも考えていらっしゃると思いますので、ぜひお話を伺いたいところです。

吉田:まず、LDHのメンバーはみんな意識が非常に高いんです。元々EXILE初代のHIROさんらがトレーニングやコンディショニングに対する意識が相当高くて、それが今でも継承されていると思います。

 僕がLDHのトレーナーを始めたときに、同業の仲間からは「スポーツ畑でやっていたのに、芸能畑に行くのか」などと言われたことがありました。でも、実際に彼らと共に過ごしてみると、下手なスポーツ選手よりもトレーニングに対する意識が高いことがわかる。だから一緒にやっていて楽しいんです。

二重作:あぁ、それすごくわかります。僕もリングドクターや格闘家のチームドクターを経験しつつ、ジェフ・ベックやプリンスファミリーなどミュージシャンのサポートもするようになりましたが、一流のアーティストは、時にスポーツ選手を凌駕するような意識の高さを感じる瞬間があります。そういう人と一緒に仕事すると引き上げられる感じがするんですよね。

 ミュージシャンはツアー日程が決まっていて、「出演できなければステージ自体が成り立たない」という大変なプレッシャーがあります。しかもロングランですから、ミュージシャンたちの身体はボロボロです。ドラマーの手関節はたいてい腱鞘炎ですし、ベーシストは肘や肩、腰もそれなりに痛めている。ホーン隊は手が勝手に固まるような経験をされてる。でも、ステージ上ではまったくそんな素振りを見せずにプレーするんですよね。それがいいということではなくて、どれだけ過酷で大変なことか。ゆっくりドクターにかかる時間もないから、話を聴いて、診察して、湿布を貼るだけでも、こちらがビックリするほど感謝されるんです。それは僕にとっての喜びであり、メディカルな意味でしっかりサポートをしていきたいと強く感じるところでもあります。

吉田:僕も現場でいつも必要とされていると感じますし、さらにサポートしていかないといけないとこちらの意識も高まっていきます。

 僕らはライブ中にメンバーの身体的なデータを取ったことがありました。心拍計やモニターをつけたり、汗を採取してどういう成分になっているかを調べたりしました。それで衝撃を受けたのは、大体3時間弱のライブで、フルマラソンを走りきるほどのカロリー量・4000kcalを消費していたんです。アドレナリンが出ているからか、最高心拍数も普段のトレーニングよりも遥かに高くなっている。初代のHIROさんたちから「本当に生きるか死ぬかというところでパフォーマンスをしている」と聞いていましたが、その意味がデータを取ることでよくわかりました。

 そうした中でもメンバーの意識が高いため、練習メニューの提案があるんです。2010年には、真夏の屋外でのスタジアムツアー『EXILE LIVE TOUR 2010 FANTASY』がありました。夕方でも気温が30度超えで湿度90%以上という過酷な状況でした。そういう舞台の練習では、HIROさんらから、スタジオで暖房をつけて服を着込んでリハーサルしたいと提案がありました。安全な範囲で、本番に近づけてやってみようと。そういう日々の積み重ねが自信になって、ライブに現れているのかなと思います。

 それにアーティストはステージ上ではどんなにきつくても笑っていなくてはいけないんですよね。アスリートであれば、きつさを表情に出しても何の問題もありませんが、アーティストはそれを表に出しません。

二重作:それはすごい話です。プリンスは「たった一度のステージで人生を変える。それがアーティストだ」と発言していました。LDHの方々のご活動は、まさに彼の言葉通りだと思います。夢や希望を与え、影響を及ぼす超人的なお仕事ではあるけれど、それをやっているのはやっぱり人間なんだということは、ふとした時に頭の片隅においてもらいたいことでもありますね。

それにしても……「ワンステージでフルマラソン」は衝撃です。三代目のみなさんは東京ドーム3日間で、フルマラソン3日連続3回、ありえない……。みなさん、文字通り、命を削っているんですね。

 そんな極めてハードな状況の中で、吉田トレーナーのような方がアーティストのそばにいてくれるのは本当に心強いことだと思います。そこで蓄積された経験や知恵などを次世代に伝えていくことは大事ですよね。身体や心についての新たな扉が開く気がします。

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