今村翔吾「地方からの文化発信のモデルケースに」 秘境で作家を目指す異例のプロジェクトの狙いを聞く

今村翔吾、なぜ秘境で作家育成?

 独自の活動で出版業界の活性化に力を注いでいる歴史小説/時代小説家の今村翔吾氏が、新たに”日本三大秘境"とされる宮崎県椎葉村にて「秘境の文筆家」プロジェクトに取り組むことが発表された。


 今村氏は、2021年に書店経営会社を設立し、大阪府箕面市の書店を事業承継したほか、2022年には直木賞を受賞したお礼として全国47都道府県の書店を巡る「今村翔吾のまつり旅」を敢行、2023年12月には佐賀駅(佐賀市)の商業施設で「佐賀之書店」を開業するなど、精力的に全国の書店を盛り上げる活動に取り組んできた。(参考:作家・今村翔吾はなぜ地方書店の復興に力を注ぐのか? 「佐賀之書店」開業にかける思いを聞く

 今回の「秘境の文筆家」プロジェクトは、今村氏が理事長を務める団体「ホンミライ」が椎葉村と連携して行うもので、椎葉村に住んでもらいながら執筆活動をする作家を募集し、商業出版デビューにつなげる取り組みだ。採用された作家は椎葉村の会計年度任用職員として村長が委嘱し、家賃は全額補助、年間給与250万円という待遇となる。


今村氏(左)と黒木村長。

 このユニークなプロジェクトはどんな狙いで企画されたのか。今村氏に話を聞いた。

「本プロジェクトの発端は、2022年に全国47都道府県を巡った『今村翔吾のまつり旅』で、椎葉村にお伺いしたことです。秘境と呼ばれるほどの山深い村なのですが、村の中には「Katerie」という交流拠点施設があって、その中に『ぶん文Bun』という図書館もあり、村の人たちは文化的な新しい取り組みに対して積極的な姿勢がありました。椎葉村の方々には、自然豊かな立地を活かした村おこしをされたいという想いがあり、私も本を通して地方を盛り上げていきたいという気持ちを持っていたため、今回のプロジェクトを行うことになりました。

 芸術の世界では、例えば画家が地方に住んで経済的支援を受けながら作品作りを行うという事例は、これまでになかったわけではなりません。しかし、日本の小説の分野でこういう取り組みを行うのは、おそらく初めてだと思います。このプロジェクトが成功すれば、地方からも文化的な発信を行うことができるというモデルケースとなり、椎葉村にとってメリットがあるのはもちろんのこと、日本中の各地でもこのような試みが行われることが増えるかもしれません」

 今一歩のチャンスがあれば芽が出るはずの作家にとっても、本プロジェクトは有益だという。

「豊かな小説を書くことができる才能があっても、経済的な理由から執筆に専念できていないという作家は多くいらっしゃるはずです。もちろん、苦しい状況の中から生まれてくる文学もあると思いますが、文豪といわれるような昔の作家には、パトロンから経済的な援助を受けて文筆業を営んでいた方も多い。経済的/精神的な安定があれば、もっと多くの作品を生み出せるという作家もいるはずで、そういう作家が椎葉村の暮らしの中で書いた作品がヒットすれば、作家が独り立ちするきっかけになりますし、椎葉村はその作家にとって第二の故郷になるわけです。井上ひさしさんの記念館などは、ゆかりの地も含めて複数ありますし、作家亡き後も文化的な拠点として残っています。将来的には、椎葉村にもその作家の記念館などができると良いですね」

 採用された作家は、椎葉村でどんな暮らしを送ることになるのだろうか。

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