『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』が泣ける本当の理由とは? “いま”戦争を描く作品の意義

『あの花が咲く丘で~』泣ける理由

 「泣かないで」と言われても、泣いてしまう物語がある。12月8日から公開された映画であり、その原作となった汐見夏衛の小説『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(スターツ出版)だ。現代から戦争中の1945年にタイムスリップした少女が、特攻隊員の青年を出会い交流する中で、命の尊さや誰かを思う気持ちの大切さに気付くといったストーリー。映画の観客や小説の読者は、そこから時を超えた純愛を妨げてしまったものの存在を知り、別れざるを得なかった悲しみに涙し、今をまっすぐに生きようと決心する。

「原作は、2016年に文庫で刊行した作品ですが、2020年頃、ショート動画のTikTokで『とにかく泣ける作品』という一般読者による投稿がバズり、重版を重ねて、文庫本·単行本·児童文庫合わせて70万部まで部数を伸ばしています。」

 映画の公開に合わせ、『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』を刊行するスターツ出版の菊地修一社長が公開したメッセージには、小説が広まっていった経緯がこのように書かれている。

 「とにかく泣ける」という煽りなら、過去にも数多の小説やドラマ、映画にもつけられていて、大勢の読者や視聴者や観客が作品に接して涙を流してきた。その内容には、例えば最愛の人が難病に罹って亡くなってしまうようなシチュエーションもあれば、すでにこの世では会えなくなった人と束の間の再会をして、しばしの交流を育むようなシチュエーションもあって、いつか自分にも訪れる、あるいはすでに経験した離別への思いをかきたてられて、落涙をもたらした。

 『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の場合は、日本がかつて繰り広げていた戦争によってもたらされる離別が悲しみを誘い、涙を流させる。原作では中学生、映画では高校生の加納百合が親との関係にギクシャクとして家を飛び出し、外で一夜を明かそうとして目覚めると、まるで知らない場所に来ていた。暑さの中をフラフラになりながらさまよっていた百合は、軍服を着た佐久間彰という名の青年に助けられ、食堂に連れいかれてそこが自分の生きていた時代から過去の、太平洋戦争を戦っていた日本だと知る。

 タイムトラベル。半村良の『戦国自衛隊』を始め内外のSFやファンタジーに描かれた現象が百合の身に起こったらしい。もっとも、そこで過去を変えて、日本が戦争に勝つために策謀を練るような立場に百合はなく、食堂で働きながら自分を助けてくれた彰や仲間の軍人たちと交流するようになる。そして知る。彰たちが特攻隊員で、まもなく出撃して命を散らす運命にあることを。

 自分を助けてくれた優しい彰が特攻によって命を散らすことに、百合は納得がいかなかった。それは日本が負けたという歴史を知り、特攻が何ら戦況を変えなかった事実を知り、そして戦後の日本がアメリカの庇護下で大いに発展して、自分たちが享受していた平和な状況へと繋がったことを知っているからで、彰にも他の特攻隊員にもそのことを知らせたいと考えた。

 百合は訴えた。「……特攻なんて、自分から死にに行くなんて、馬鹿だよ。そんなの、ただの自殺じゃん……。馬鹿だよ。特攻を命令した偉い人も、それに従っている人たちも、みんな馬鹿。やめればいいのに。逃げちゃえばいいのに」。そしてこうとも。「特攻なんて、体当たり攻撃なんて、ただの無駄死にだよ。みんなが命を捨ててと敵艦に突撃しても、結局敗けるんだよ」。彰は自分を曲げなかった。

 現代人ならごく普通の考えも、戦争の中で教育を受けて来た彰たちには伝わらない。お互いを意識しながらも決定的な部分ですれ違ってしまったまま離別が訪れる。『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』が泣けるのは、動かしがたい運命によって別れざるを得ないことが悲しくて、同時に悔しいからだ。自分のために命を散らしてくれることへの感謝や、誰かの身代わりになって死んでいくことへの賛意ではない。

 自分と親しかった人の命が、戦争という理不尽な状況に絡め取られて失われるミクロの悲しみであり、同じような離別が何百何千何万といった数、繰り広げた歴史へのマクロな悲しみがもたらす涙。だからこそ映画を観終わったり、小説を読み終わったりした後に残る感情には、深くて広いものがあるのだ。

 「世界では、今まさに悲惨な戦争が起きています。ニュースで誰もが知ってはいるものの、どこか遠い国で起きている、自分たちには関係ないことと、私も含め多くの日本人が思っているかもしれません。しかし、実際には日本でも、わずか数十年前に同じことが起きていたわけですし、これから絶対起きないとは限りません」

 スターツ出版の菊地修一社長が映画の公開に寄せたメッセージが、今まさに海の向こうの世界で起こっている紛争で、少なくない命が失われていて、離ればなれになってしまう人も大勢出ている現実に気付かせる。「この映画を観て、この本を読んでいただいて、戦争と愛と平和について、改めて考えてみてください」と結ばれたメッセージにあるように、映画を観終わったり小説を読み終わったりした人の心には、戦争というものがたくさんの悲しみをもたらす事実がしっかりと刻みつけられる。

 この映画が中高生や大学生にもヒットしていて、小説もティーンに良く読まれているらしい状況が、これからの日本に何をもたらすのかは気になるところだ。死にたくない、生きていたいといった、誰でも求めるそんな願いがかなわない時代があったことを、今の中高生もまったく知らない訳ではないだろう。ただ、戦争が終わって20年くらい経って生まれた人たちが中高生だった頃と比べて、戦争のリアリティはグッと薄れてしまっている。

 それを『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』という作品が与えてくれる。

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