ライターが選ぶ「2023年に読んだ漫画BEST5」たかなし亜妖編『ジャンケットバンク』など“王道で斬新”傾向変わらず

ライターが選ぶ「2023年に読んだ漫画BEST5」たかなし亜妖編

本気のホラー『裏バイト:逃亡禁止』に感じた切れ味の鋭さ

 映画も、漫画も、アニメも、近頃は心霊描写が少ない新感覚の作品が増えたように感じる。それはそれで面白いのだが、たまにはガツンとくるシャープなホラーがほしい。そんな時に出会ったのが『裏バイト:逃亡禁止』だった。

 裏バイトと言えば世間では運び屋、受け子などがピックアップされるが、本作の場合は家政婦やビル警備員、治験など表向きはごくごく一般的なバイトばかり。「裏」とは“命懸けである点”を意味し、大金を目的とするユメと和美は自ら沼へと浸かりゆく。

 何の前触れもなしに恐怖シーンが突如現れるビックリ仕様で、ジェットコースターのような恐怖が体験できる。「え、今!?」と覚悟を決めていない時に心霊カットが挿入されるため、心臓が弱い方は要注意なのだが。

 先ほど紹介した『光が死んだ夏』のように終始陰鬱な空気が流れるホラーとは打って変わって、日常パートはとても明るい。ユメと和美のやり取りは至って軽快、正反対な2人のやりとりには微笑ましささえ感じるほどだ。

 何よりも日常と恐怖のメリハリが作品の味わい深さを出している。単行本の表紙が毎度恐ろしいので手に取りづらいが、“ただ怖いだけ”の漫画ではないため、少しのホラー耐性があるのならぜひおすすめしたい。

アニメ化で話題を呼ぶヤンキー漫画の新星『WIND BREAKER』

 『ドロップ』『OUT』『東京卍リベンジャーズ』など平成のヤンキーを好む筆者。最近は似たり寄ったりの作品が増加していたことに「なんだかなぁ」と思っていたのだが、なんと『WIND BRAKER』は令和のヤンキー。不良界に新しい風を吹かせ、食傷気味の心を復活させた存在でもある。本作に登場する不良は悪者から人々を守る街のヒーロー。ヤンキーは人に迷惑を掛けるものといったイメージを見事に払拭してくれる存在だ。

 主人公の桜遥(さくらはるか)はてっぺんを獲るために学園へやってきたTHE・不良。街を守るために君臨する組織ボウフウリンに強く興味を示し、頂点を目指すが、従来の刺々しい暴れ馬系の主人公なら、正義の味方のようなポジションを激しく嫌うことだろう。

 しかし彼は悪党ではない立ち位置に魅力を覚え、心を躍らせた。意外と柔軟な考えを持つキャラであり、ボウフウリンのメンバーたちも“新しい形のチーム”を我々に見せてくれる。孤独を極めた遥が徐々に仲間と打ち解けていきながらも、自身に違和感を覚えつつ葛藤する姿が実に人間らしい。ヤンキー漫画は「友情」「努力」「勝利」の三つを感じられる良さがあるため、読者が期待する要素もしっかりと含まれているのだ。

 『WIND BRAKER』は「どこかで見たことはあるけど、どこか新しい」を感じられる作品。令和のZ世代の不良を楽しみ、自身の感覚を更新するにぴったりの漫画ではないだろうか。

 ここ数年は誰もが好きな王道+斬新さにより注目を集める作品が多く、2023年も引き続きその傾向が強く見られた。常識を逸脱するようなブッ飛んだ内容より、安心して読めるようなものに人気が集中するということは、コロナ禍以降オタクカルチャーがより発展し「一周回って読者の目が肥えたから」なのかもしれない。ピックアップした漫画の連載歴はどれも3年以内。今から読み始めても遅くはなく、最新話まで追いかけやすいはずなので気になる作品にはどんどん触れてみよう。きっと新たな発見があるはずだ。

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