「2022年コミックBEST10」『三日月よ、怪物と踊れ』は伝奇ロマンの傑作だ 漫画ライター・島田一志編

2022年コミック・ベスト10(島田一志)

1位 『三日月よ、怪物と踊れ』藤田和日郎(講談社)
2位 『天幕のジャードゥーガル』トマトスープ(秋田書店)
3位 『さよなら絵梨』藤本タツキ(集英社)
4位 『ヘルハウンド』皆川亮二(講談社)
5位 『チェンソーマン』第二部 藤本タツキ(集英社)
6位 『ALIENS AREA』那波歩才(集英社)
7位 『緑の歌―収集群風―』高妍(KADOKAWA)
8位 『人造人間100』江ノ島だいすけ(集英社)
9位 『ベルセルク』原作・三浦建太郎/漫画・スタジオ我画/監修・森恒二(白泉社)
10位 『東京卍リベンジャーズ』和久井健(講談社)

 昨年に引き続き、今年も個人的に面白かったコミックの年間ベスト10を選ばせていただいた。少年漫画、それも、SF系のバトル物が多いのは単に選者の趣味ということで、(不服のある方もおられようが)ご了承いただきたい。

 1位は、藤田和日郎の『三日月よ、怪物と踊れ』。19世紀の倫敦(ロンドン)を舞台にした「黒博物館シリーズ」の第3弾だが、今回の主人公は、かの有名なゴシック小説『フランケンシュタイン』の作者、メアリー・シェリーである。

 あるとき、メアリーは、近衛歩兵第一連隊の大尉から異様な密命を受ける。それは、ヴィクトリア女王の命を狙う暗殺集団を迎え撃つために、2人の人間の死体を繋ぎ合わせて造られた「怪物」を“教育”してほしいというものだった……。

 悪者が正義のために戦う、そして、月の光の下(もと)での陰の存在と陽の存在の闘いという、藤田和日郎の伝奇ロマンの集大成といっても過言ではない傑作だ。

 2位の『天幕のジャードゥーガル』は、天涯孤独の奴隷の身から、やがて、知と美貌を武器にして、モンゴル帝国を翻弄する“魔女”へと成り上がっていくひとりの少女の物語。主人公の名は、シタラ(後に「ファーティマ」を名乗る)。モデルとなったファーティマ・ハトゥンは、「悪女」として名高い歴史上の人物だが、その“史実”をトマトスープという異才がこの先どう料理していくのか、いまから楽しみである。

 3位と5位には藤本タツキ作品を選んだ。中でも、(私は3位にしたが)『さよなら絵梨』を「2022年のベスト」に選ぶ漫画ファンは少なくないだろう。藤本タツキといえば、『ファイアパンチ』以降、一貫して「映画と人生」、あるいは「映画と死」というテーマを作品に織り込んできた漫画家であるが、本作ではその志向がもっともわかりやすい形で表わされている。

 4位、『ヘルハウンド』は、『ARMS』や『スプリガン』などのヒット作で知られる皆川亮二の最新作。家族のために傭兵になった異世界の少年・ショウは、戦闘の最中、不思議な空間に足を踏み入れてしまい、その結果、“こちらの世界”(いま、私たちが暮らしている現実世界だ)に飛ばされてしまう。しかしなぜかこちらの世界にも別の“敵”がいて……。

 敵の身体の一部が変形していくヴィジュアル表現の斬新さは、「さすがは『ARMS』の作者」という他ないが、生き残るために、(そして、家族の元に還るために)主人公は、元の世界では敵だった知能を持った犬と共闘することになり(この犬も彼と一緒にこちらの世界に飛ばされていたのだ)、本来は手を結ぶはずのない動物と人間の奇妙な“バディ”が誕生するのだった。

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