楠本まき『致死量ドーリス』の愛蔵版発売! 90年代、音楽シーンにも多大な影響を与えた名作が今読まれる理由
2021年発売の『Kの葬列』、2022年の『KISSxxxx』に続き、1998年に出版された「致死量ドーリス」の愛蔵版が11月22日、ついに発売された。
ここ数年、90年代の楠本まき作品の愛蔵版が立て続けに発売されている。音楽シーンやサブカルシーンに大きな影響を与えた楠本作品が、30年もの時を経てなぜ今ウケているのか考察した。
有名ミュージシャンたちのインタビューやSNSで話題に
楠本まきは、1984年に「週刊マーガレット」でデビューし、90年代に出版された『KISSxxxx』『Kの葬列』『致死量ドーリス』などで世代を超えたファンを獲得した漫画家だ。
90年代といえば、音楽業界でミリオンヒットが連発した華やかな時代。特に、全盛期を迎えたヴィジュアル系バンドブームと、楠本が描くまるで海外のアート作品集のような繊細でおしゃれな色調のイラスト、作中に散りばめられたパンクロックやファッション要素が共鳴し、多くのミュージシャンが影響を受けたことを公言している。
実際、2022年に弥生美術館で開催されたイラスト展には、L'Arc~en~Cielをはじめとする人気バンドから花が贈られている。また、銀座で『Kの葬列』のコラボカフェが開催された際にはHYDE自らが実際に足を運んだ旨をX(旧Twitter)でポストしていた。
その他、LUNA SEAやTHE LAST ROCKSTARSの活動でメディア露出が多いSUGIZOなども、過去のインタビューで楠本作品について触れており、リアルタイムで知らない世代にとっても、楠本漫画は「自分の推しが大きく影響を受けた伝説的な作品」なのだ。
90年代から活動を継続しているアーティストたちがこぞってアニバーサリーイヤーを迎えていることが、話題の追い風となっているのは間違いない。
ドラマチックなコマ割りと、まるで謎解き?
楠本作品の魅力といえば、独特でスタイリッシュなコマ割りと、随所に散りばめられた物語の伏線や独特のセリフの数々。突然、ポエムのようなセリフやイラストページが挟み込まれており、まるで謎解きのよう構成になっている。
『致死量ドーリス』は、バンドマンの岸(きし)という青年が、バイト先の本屋で見かけた謎めいた雰囲気の大学院生・密に声をかけることから展開する物語。岸は密に一目惚れし、その魅力に深みにハマっていくのだが、彼女が絵のモデルをする際に「ドーリス」という別名で呼ばれていることを知る。
序盤は、通常の漫画のように2人のセリフの掛け合いで物語が進行。岸が書店で「ドーリス」の絵を見つけるシーンでは、突然アンディ・ウォーホルの「スープ缶」のようなイラストページが挟まり、続いて「不眠症の悪魔、切り落とされた長い髪、ヘヴィシロップ漬けの毒毒しいチェリー」というまるで謎かけのような文言が登場する。
その後のストーリーを追っていくと、密がチェリーを缶詰から直接摘んで食べるシーン、ドーリスに関する岸から蜜への問いかけの場面が続く。作中では、チェリーを食べるシーンがもう1回あるのだが、その文言は「閉所恐怖症の悪魔、切り落とされた長い髪、ヘヴィシロップ漬けの痛々しいチェリー」となっており、単にミステリアスな大学院生と思われていた密が、「ドーリス」という別人格へと変貌していく段階が描かれていることがわかる。
その他にも、岸のセリフや回想が文字のみで構成されたページ、キャラクターが1言も発しないページなど、通常の漫画のコマ割りとは一味違う、斬新でアートブックのような構成が印象的な本作。『Kの葬列』『KISSxxxx』などの代表作とともにぜひチェックしてみてほしい。