【漫画】オーディション時代からの推しのアイドルが認められ……SNS漫画『偶像の恋』の切ない輝き

【漫画】“推し活”描く『偶像の恋』

アイデアはお風呂で浮かんだ

――なぜ『偶像の恋』を制作しようと?

阿賀:特に経緯というほどのものはありません。お風呂に入っている時、ふと男の子のモノローグが浮かび、そこから会話や出来事がズルズルと続けて出てきました。それをスマホのメモに書いていたら短いお話ができあがった、という感じです。

――“推し”ということが軸になっている作品でした。お風呂に入っている時、推しのことを考えていたのですか?

阿賀:いえ、私自身に〝推し〟と呼べるような存在はいません。ただ、演劇やライブなどイベントに行くことは大好きです。そういった場所で、ファンの歓声を聞いたり高揚した姿を見たりすると、「すごいパワーだな」といつも思います。何がどうすごいのかを上手く言葉にできないからこそ、物語として頭に浮かんだのかもしれません。

――とにかくファン心理の移り変わりが見事に表現されていた内容でした。主人公の心の揺れ動きを描くうえで意識したことは?

阿賀:誰かを、もしくは何かをものすごく好きになった時の、周囲が見えなくなる感じを表現できるように意識しました。また、純度の高い“好き”ゆえの思い込みの激しさや滑稽さを、モノローグとエピソードで伝えることにもこだわりました。

リアルすぎる推しとのやり取り

――主人公が実際にコウヤに会った際、主人公のセリフとコウヤの表情でページが展開される、その見せ方がとても巧みでした。

阿賀:コウヤはあくまで一個人として主人公に接していますが、主人公にとってコウヤはオフだろうとなんだろうと芸能人であり特別な存在です。その対比を描くために、自然に喋るコウヤの表情と不自然に喋れなくなる男の子の頭の中、という図にしました。

――頭の中を必死に回転させるも、結局は小声で一言しか発せない様子は、可愛らしくもありリアリティもありました。

阿賀:これまでどれだけの想いを積み上げてきたとしても、いざ好きな人を目の前にすると結局はこのありふれた二文字でしか伝えられない、というやるせなさともどかしさ、またとにかく切羽詰まった空気感が伝わっていれば嬉しいです。

――主人公がコウヤと対面した後、BL的な展開になるわけでもなく、そこから立ち話をするのでもなく、あくまで推しとの関係を崩さないラストも素敵でした。

阿賀:「好き」と口に出して伝えた瞬間、「どんなに好きでも遠い」ということを思い知り、同時に「どうせ遠くへいってしまうなら、もっと輝いて、ずっと偶像でいて」というエゴが出たのかなと思います。

――推しが遠くに羽ばたくことを肯定できない人も一定数います。阿賀さんとしては推しの距離感についてどのように考えていますか?

阿賀:好きな人に向ける感情や応援の仕方・考え方は、百人ファンがいれば百通りあるもので、そこに「正しい」も「間違い」もないと思っています。ただ、個人的には“絶対に手の届かない場所で光り輝いている存在”というモチーフが大好きなので、その存在を“偶像(アイドル)”として焦がれる気持ちを“恋”と本作で表現しました。

――これから阿賀さんの漫画制作での予定・展望などはありますか?

阿賀:気力体力の続くかぎり、どういうかたちでも良いので物語を書いていきたいです。商業漫画の原作のお仕事をしながら、時間を見つけて趣味の漫画も作っていけたら良いなと思っています。HPにこれまでの作品などまとめていますので、ウェブ漫画、商業の漫画(原作)、小説、なにか一つでも興味を引かれるものがあれば、読んでもらえると嬉しいです!

■阿賀直己さん
『神さまはこの恋をわらう』(ルナマリア)でデビュー。
2023年現在『鬼と天国 及』(竹書房)『その目でしっかり抱いておけ』(ブライト出版)を連載中(いずれも原作担当)。
X:@AgaNaomi
HP:https://aganaomi.studio.site/

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