マカロニえんぴつの歩みには前例がなかったーー兵庫慎司の『マカロニえんぴつ 青春と一緒』評

兵庫慎司の『マカロニえんぴつ 青春と一緒』レビュー

 あと、個人的に、特に改めて気づかされたこと。インターネットの時代になって(なんせその前から業界人だったもんで)、スカウトする側はバンドを見つけやすくなっただろうなあ、と漠然と思っていたが、だからこそ困難になっている側面もある、という事実だ。

 たとえば、昔は、そのバンドがライブハウスに200人とか集めるようになるとスカウトが来る、ということもあったが、今はそれでは遅すぎる。ファンがゼロに近いような段階で見つけて、将来的にいける存在なのかどうかを、見極めないといけない。

 マカロニえんぴつも、まさにそうやって発掘されたバンドであることも、本書には、非常にリアルに書かれている。

 さらに言うと、最初の音源のリアクションはよかったが、その次の作品から苦労したことや、初の渋谷クラブクアトロが全然埋まらなかったことも赤裸々に書かれていることも、とてもよかった。

 特に笑ったのが、出会った当時のマカロニえんぴつの見た目が「絶望的にダサかった」ことや、「ド直球に言ってしまえば、彼らはファッションセンスがなかったのだ」ということや、マカロニえんぴつというバンド名に意味がないことを知って頭を抱えて、しょうがないから後付けで意味を考えたことまで、いちいち書かれていることだ。

 チーフマネージャーでありプロデューサーである、という立場を考えると、わざわざ書かなくてもいいことである。

 でも書いた。なぜ。事実だから。で、そんな、「音楽的にはとても良い素材だが、このままでは売れないだろう」(本書より)という第一印象だったバンドをどう変えていったのか、という中に、そのへんも関わってくるんだから、触れないのはおかしいだろう、という。

 つまり、チーフマネージャーでありプロデューサーである自分よりも、書き手である自分の方が勝っちゃっているのだ。というあたりも、本書がおもしろい要因のひとつだと思う。

 なお、自分がマカロニえんぴつをマネージメント/プロデュースするにあたり、それより前に東京カランコロンとSAKANAMONを発掘して育てた経験があったことが活きた、ということも、本書には書かれている。

 が、つまりそれは、今のマカロニえんぴつのような、アリーナはあたりまえでスタジアムに指先がかかっている、というくらいでかいバンドのマネージメント/プロデュースは、江森さんにとっても初めて、ということでもある。

 なので、何年か後に、続編が書籍化されるのを、楽しみにしています。

■書籍情報
『マカロニえんぴつ 青春と一緒』
著者:江森弘和
発売日:11月22日
価格:¥1,980
出版社:双葉社

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